越前。君はこの言葉から何を連想するかな? 越前海岸、越前岬、越前ガニ、コンバット越前。ま、だいたいその辺りが古典的な回答ではないかと思うんですが、最近では、越前と言えばエチゼンクラゲっ!…という印象が非常に強くなってきました。インパクトがありますからね、ありゃ。大きなものだと傘の直径が2m、重さは150kgにも達するということで、これはもう、大きいです。 そのものを目にした瞬間、 「ああん、大きいのぉ♪」 と、期待に胸が弾むところでありますが、実際は、「ああん、大きいだけでフニャフニャしてて、思ったほどでもなかったのぉ。。。」 ということで、あまり評判はよろしくないようなんですが、同じ海洋系の軟体動物なら、海綿とかのほうがよかったりするのかも知れません。 地元の越前でもさほど人気がなかったりするようなんですが、そもそも越前がエチゼンクラゲの本場だと思われていること自体、ちょっと不本意に思われているようで。 そもそもこのクラゲ、生まれや育ちは黄海や渤海のあたりで、その一部が海流に乗って日本付近にまでやってきたものなんだそうで、越前海岸付近だけに限らず広く日本海全域で確認されているんだそうです。事実、僕も城崎あたりの海岸に打ち上げられている巨大クラゲを目撃したことがあるんですが、越前で獲れる越前ガニと同じ種類のカニが城崎では松葉ガニという名前になるので、本来、城崎で水揚げされた巨大クラゲはマツバクラゲという名前になってしかるべきだと思います。 が、どこで獲れようと、大きなクラゲはエチゼンクラゲっ!…ということになってしまって、越前地方は大きな風評被害をを蒙っているようです。越前→クラゲ→刺される→ああん! そういうイメージが広がって観光客も減少しているんだそうで、いや、このクラゲはただ図体がデカいというだけで人を襲って刺したり、後ろからいきなり抱き付いて、ぐへへへ♪…といった変態行為に及ぶことはないようなんですが、漁業被害とか、かなり深刻みたいだし、これは何とかしなければなりません。
邪魔なものを処分する方法としては、焼く、穴を掘って生める、海に流す。 ま、この3つくらいがポピュラーでしょうか? 巨大クラゲの場合、海からすくいあげた奴をまた海に流すというのは、何だか二度手間な感じがします。焼くにしてもクラゲは体の90%くらいが水分らしいので、おそらく生焼けになっちゃうでしょう。土に生めるにしてもあまりに図体がデカ過ぎて、穴を掘るのが大変です。何かいい方法はないか?あれこれ知恵を巡らせた挙句、思いついたのが粉にしてクッキーに混ぜるという方法なんですが、なるほど、これはいいアイデアです。邪魔なものを処分する方法として、それがとりあえず食えるものであるなら、とりあえず食っちゃうというのが手っ取り早いんですが、例えば僕は小学生の頃、給食を食べるのが苦手でした。時間内に食べきれずに、どうしてもパンが残ってしまうんですが、揚げパンとか、メニューにホイップクリームが付いてくる時とかを除くと、基本的にあまり美味しくなかったんですよね、桑名パンのパン。 僕は食べ切れなくて残ってしまったパンの処分に困り、とりあえずそいつを学校の机の中に押し込んで、最初から無かったことにする。…という戦術に出たんですが、最初から無かった筈のパンは数日が経過するとカピカピになって、時にはカビなどが繁殖した状態で机から発見されることになって、大変、先生に叱られました。 食べ残しのパンというのはカビが生える前ならとりあえずは食えるので、食ってしまえばよかったんや! 今、これを書いていてふとその事に気付いたんですが、時間内に食べられないのなら、放課後とかに食べればよかったんですな。 そうとも知らず、パンを机に隠したまま “いよさん” (←近所の駄菓子屋) で鈴カステラを買って食ったりして、今から思えば当時の僕は、ちょっとアホでしたなぁ。。。
が、その事に気付いてしまえば、もう大丈夫です。エチゼンクラゲ、食っちまいましょう。もともとクラゲなんてヤツは中華料理の食材になってるくらいなので、食って食えないワケがありません。 キノコにだって、食感がクラゲに似ているからと、わざわざ “キクラゲ” どという名前を付けられたものがあるくらいですしね。 クラゲを食うという習性は何も中国人に限られたものではなく、我が大和民族も例えば備前国 (現在の岡山県) では地元で獲れたクラゲに “ビゼンクラゲ” いう名前を付け、肥前国 (現在の佐賀県) では地元で獲れたクラゲのことを “ヒゼンクラゲ” と呼んで、酢の物とかにして食べていたそうなんですが、エチゼンクラゲというのも学術的にみると、根口クラゲ目ビゼンクラゲ科というのに属しているらしいです。 1921年ということなので、かなり前の話になるんですが、福井で水揚げされたクラゲの標本を鑑定した結果、ビゼンクラゲとよく似てるんだけど、どうやら新種らしいという事が判明して、福井やから “エチゼンクラゲ” でエエやん。備前と肥前と越前で “韻” を踏んでて、めっちゃエエやん!…ということになって、どうやらこの名前が定着しちゃったようです。
で、この巨大クラゲが増えすぎて甚だ迷惑なので、とりあえず食っちゃおう!…という機運が高まってくるんですが、クラゲを使った加工食品としてまず最初に思いつくのは、エチゼンクラゲゼリーですか。これだと加工する必要もなくて、ただそのまま容器に盛り付けるだけでOKです。エチゼンクラゲというのは大きいので、大相撲で優勝した時に貰える優勝カップなどを活用するといいでしょう。 が、一般家庭で大相撲の優勝カップを持っているところはさほど多くはないと思われるので、その場合は一手間加える必要が生じます。小さな器にも入るようにエチゼンクラゲを賽の目に切って、フルーツポンチに入れたりするといいのではないかと思うんですが、あるいは羊羹サイズのブロックに切っておいて、トコロテンみたいに突いちゃうとか。クラゲと酢は相性がいいので、エチゼンクラゲトコロテン、けっこうイケるかも知れません。 エチゼンクラゲを使ったフルーツポンチは実際にも商品化されていて “くらげポンチ” という名前が付けられているようですが、ただ賽の目にカットしただけでは臭かったり渋かったりするようなので、塩とミョウバンで水分を抜いて、ミカンや黄桃などと一緒にラム酒の香りをつけたシロップに漬け込んであるようです。 とまあ、ここまでは誰もが考えそうなメニューですよね。エチゼンクラゲアイスというのも、ま、アリかな?…という気はします。 が、これがエチゼンクラゲのクッキーとなると、どうやって作ればいいものなのか、まるで見当がつかなかったりするんですが、ま、要は粉にしてクッキーに混ぜると、そういうことになるんだと思うんですけど。
とまあそんなことで、買ってきました 『えくらちゃん さくさくクッキー』 。 越前松島水族館 の売店で売られているようなので、行ってきました。お土産というのは出来るだけ、その土地に行かなければ手に入らないものを買いたいところなんですが、このクッキーは今のところ福井限定ということなので、その点ではかなりポイントが高いと言えそうです。 が、あまりにも売行きが好調なので大阪進出も果たしたようで、その点では、魂を売り渡したな。…と思わずにはいられませんが、それはともかく。このクッキーにはポイントが2つあります。まず最初は原料となっているエチゼンクラゲの粉末なんですが、これはですね、小浜水産高校の生徒たちが研究開発したものなんだそうです。女子高生が知恵を絞って、身を粉にしてクラゲを粉にしたのかと思うと、何だか愛しさがこみ上げてくるんですが、いや、もしかして研究開発に携わったのは男子生徒だったりするのかも知れませんけど。だとすれば、クラゲの粉末って、気色の悪いもんを作るな!…と思わずにはいられませんが、で、ポイントの2つ目としては商品化に伴って考え出されたマスコットキャラクター “えくらちゃん” の存在を挙げなければなりません。彦根城築城400年祭が “ひこにゃん” の活躍によって盛り上がり、 “せんとくん” の話題で平城遷都1300年祭の知名度が上昇したことからも分かるように、イベントや商品の人気はマスコットキャラによって大きく左右されることになるんですが、で、この “えくらちゃん” 。エチゼンクラゲだから、 “えくらちゃん” 。ネーミングの安易さは “せんとくん” と同レベルなんですが、見た目はけっこう可愛いんですよね、これがまた。ポチャっとして下ぶくれなところが個人的にはちょっとタイプなんですが、今後、クッキー以外の分野にも活路を見出せそうな期待株であると言えるでしょう。
海に住んでるえくらちゃん。カラダは大きいけれど、ちょっぴり恥ずかしがりやで、泣き虫なおんなのこ。…とまあ、そんなキャラのようなんですが、なるほど、泣き虫だから目がウルウルしているんですな。泣いている理由はおそらく、海の水がオメメにしみたから。…とか、そういうことではないと思うんですが、そんなことでいちいち泣いてたら、クラゲとして海で生きてませんもんね。おそらく、 「オメーのせいで網が破れたやん!」 とか、 「オメーのせいで観光客が減ったやん!」 とか人間にきつく言われて、思わず涙が出ちゃったんじゃないかと思うんですが、でもこれ、別に泣いているわけではないようにも思えてきました。口元には笑みを浮かべているようにも見えるし、あるいは目がウルウルしているのは哀しいからではなくて、単なる目の病気なのかも知れませんね。トラコーマとか。 で、このクッキー、外箱に “えくらちゃん” 、個別包装にも “えくらちゃん”、袋を破ってもクッキー本体に “えくらちゃん” と、かなりしくこいくらいにエチゼンクラゲをアピールしております。昨今、外箱だけに “越前名物” とか “福井名産” などと書いておいて、その実、どこの観光地でも使い回しが出来るように、個別包装には地名の書かれていない土産物が少なくないんですが、そんな風潮の中、立派な態度でありますな。10枚入り580円という手頃なお値段、それでいて1枚が割と大きくて見栄えがするし、どういう状況で配布されても、とりあえずエチゼンクラゲのところへ遊びに行ったんやな。…ということが一目で分かるので、会社でおやつの時間に配るには最適だと思うんですが、福井土産としては “羽二重餅” を超えるヒット商品になるのではないかと、僕は密かに思っていたりします。 ま、食べて美味しければの話なんですけどー。
ということで、では食べてみましょう。 お、おおっ、これは!まさにクラゲの味っ!…ということはまったく無くて、ごく普通にクッキーの味です。ホントにクラゲの粉末、入ってるんか?…と疑心暗鬼に陥ってしまいそうなんですが、100kgのクラゲを煮詰めて濃縮クラゲにして、それをフリーズドライにして得られる粉末が約500g。その成分はニガリに近い組成なんだそうで、ということはつまり、苦いんですかね? 食べた後、ほんのりと口の中に残る苦みばしった塩味がどうやらクラゲによるものらしいんですが、この塩気がクッキーの甘さを引き立てて、ああん、おいしー♪ でまた、このクラゲ粉末にはパルミチン酸やオレイン酸、さらにはEPA、DHA、コラーゲンといった体にいい成分も含まれていて、ああん、ヘルシー♪ で、最初は気付かなかったんですが、スライド式になっている外箱の内側の側面のところにも、いろんなタイプの “えくらちゃん” が書かれておりました。上段左側は “海水浴えくらちゃん♪” 海水浴場にクラゲが出ると、客足が遠退くんや!…とか、そんなことはお構いなしに、えくらちゃん、のんきに水浴びをしております。小さな浮き輪を持ってるところも見ると、ちょっぴり泳ぎには自信がないようです。ゴーグルも用意しているところをみると、やはり海水が目にしみて、ウルウルしちゃうんですかね? で、上段真ん中は “さかな釣りえくらちゃん” 。 アンタのせいで漁業者は大きなダメージを蒙ってるんや!…とか、そんなことはお構いなしに、えくらちゃん、のんきにオサカナを釣っております。釣ってどうするんですかね?焼いて食うんですかね?あるいは煮詰めてフリーズドライで粉末にして、クッキーに混ぜちゃうとか。 で、上段右側は “ソフトクリームを食べるえくらちゃん” 。 無邪気で可愛いな♪…という気がするだけで、特に異論はありません。 下段左は “泣き虫えくらちゃん” 。女の子に泣かれちゃうと、もう何も出来なくなってしまいます。ゴメンよぉ。もう煮詰めたり、粉にしたりしないから、泣かないでおくれよぉ。。。 真ん中、 “ウインク・キッスえくらちゃん” 。可愛いですな。もう、食べてしまいたいほど可愛いです。思わず煮詰めて粉にしてクッキーにして食べたくなってしまうほど、可愛いです。最後はえーと…、何ですかね、こりゃ? “画家のえくらちゃん” ? マフラーを巻いているので、あるいは “えくらちゃん冬バージョン” なんでしょうか? おそらく、ノーマル以外の “えくらちゃん” を6種類作って。…と言われて、5つ考えたところでネタが尽きて、苦し紛れに考え出されたものではないかと思うんですが、 個人的には、んーと、泣いてる顔がいちばんソソられるかも? 好きな子ほど虐めたくなるというのは誰でも思い当たる節があると思うんですが、で、ホントに虐めて泣かれちゃったりすると、罪悪感と愛しさとがないまぜになって、何とも言えない気持ちになっちゃいますよね。それがエスカレートすると変態プレイの領域にまで足を踏み入れる事になるのではないかと思うんですが、とまあそんなことで、見た目も可愛くて食べても美味しい、えくらちゃん。バブー、ハーイ!…はイクラちゃん。山上 (やまのうえの) 億良ちゃん。この3人の中ではやっぱり、えくらちゃんがいちばんラブリーだと僕は思うんですが、福井で彼女の姿を見かけたらサクサクと食べてやってくださいね。とまあそんなことで、今日の “おやつの時間” は、おしまい♪
( おしまい♪ )