『 青春歌年鑑('76-1…の前編 ) 』

〜 「およげ!たいやきくん」から「めまい」まで 〜


1 およげ!たいやきくん / 子門真人
2 北の宿から / 都はるみ
3 木綿のハンカチーフ / 太田裕美
4 俺たちの旅 / 中村雅俊
5 横須賀ストーリー / 山口百恵
6 わかって下さい / 因幡晃
7 あの日にかえりたい / 荒井由実
8 赤いハイヒール / 太田裕美
9 めまい / 小椋佳
10 山口さんちのツトム君 / 斎藤こず恵
11 愛に走って / 山口百恵
12 君よ抱かれて熱くなれ / 西城秀樹
13 弟よ / 内藤やす子
14 針葉樹 / 野口五郎
15 あばよ / 研ナオコ
16 春一番 / キャンディーズ
17 揺れるまなざし / 小椋佳
18 パールカラーにゆれて / 山口百恵
19 盆帰り / 中村雅俊
20 あなたがいたから僕がいた / 郷ひろみ
21 20歳のめぐり逢い / シグナル
22 裏切者の旅 / ダウン・タウン・ブギウギ・バンド
23 パタパタママ / のこいのこ
24 ハートのエースが出てこない / キャンディーズ
25 嫁に来ないか / 新沼謙治
26 傾いた道しるべ / 布施明
27 恋人試験 / 松本ちえこ
28 愚図 / 研ナオコ
29 帰らざる日々 / アリス
30 河内のオッサンの唄 / ミス花子


(2008年2月11日更新)


 今回から2回シリーズで1976年の歌謡曲について考えてみたいと思うんですが、元号に直すと昭和51年。さば君は3月14日が来て、めでたく 8歳ということになりますか。人間、これくらいの歳になるとわりと頭もよくなってくるようで、この年に起こった社会的な事件や事故などは、「あったあった!」…といった感じで、けっこう記憶に残っていたりします。例えばの話、 “ロッキード事件” なんてのがそうです。無論、僕がいくら神童だったとは言え、所詮は8歳児のことなので、受託収賄とか外国為替・外国貿易管理法違反とか、そういう難しいことまで理解していたわけではないんですが、そうり大じんの、田中かくえいが、たいほされたんだよね。…というくらいの認識はありました。いくら神童とは言え、僕は漢字の書き取りがちょっと苦手なコドモだったので、記憶の大半が平仮名であるのはやむを得ないところでありますが、この事件からは灰色高官記憶にございません黒いピーナッツなど、数多くの流行語も生まれております。 さば兄が考案した新キャラの “落花くん” なんてのは、あるいはこの黒いピーナッツあたりにヒントを得たものなのかも知れませんが、政治の世界では総選挙敗北で三木首相が退陣福田内閣が発足などというニュースもあったようです。無論、今の首相の福田康夫クンのパパの福田赳夫クンのほうでありますな。当時、子供心に、えらく年寄り臭い爺ィが総理大臣になってしもたな。…というようなことを、平仮名で思っていたような記憶があるんですが、その年寄り臭い爺ィの息子が今ではすっかり成長して年寄り臭い爺ィになって、また総理大臣をやっているわけですからね。歳月の流れを感じずにはいられません。

 その他、文化的な話題として、大島渚の 「愛のコリーダ」 封切というのがありますが、当時8歳児だった僕は当然ながらこの映画は見ておりません。見てはおりませんが、大変いやらしい作品だったというのは何となく知っております。後から聞いた話では、コリーダというのは闘牛士の意味なんだそうで、阿部定事件をテーマにしたものなんだそうですが、阿部定というのはアレです。情夫を絞め殺して、宇能センセイ言うところの “彼のそのもの” をちょん切って、それを持って逃げたという、そういうギャルであるわけなんですが、幕の内弁当に入ってる赤いウインナーみたいな感覚だったんすかね? あたいコレ大好きだから、最後まで大事に取っておくのぉ♪…みたいな。僕も好きなものはいちばん最後に取っておくタイプなので、その気持ちも分からんではないんですが、お弁当と言えば 「ほっかほっか亭」 の1号店が埼玉にオープンしたのがこの年なんだそうで。 いわゆる “ほか弁” のはしりであるわけですが、パシリで弁当を買いに行かされた覚えがある人も少なくないかも知れません。 その他、スポーツの世界では何と言っても “アントニオ猪木VSモハメッド・アリ、世紀の対決!” というのが最大のイベントでありましたな。プロレスとボクシング、どちらが強いか?…という長年の疑問に、遂に明快な答が得られる日がやって来たわけなんですが、その結果はというと、引き分けだったんですけど。アリくんとしてはアントニオ猪木ではなく、ナンシー梅木を対戦相手に選んだほうがよかったかも知れませんな。軽く1発殴られただけで、呻き声を上げてギブアップしちゃいそうですもんね、ナンシー梅木。

 アグネス・ラムが大人気になったのもこの年らしいんですが、いや、いいですよね、ラムちゃん。エエ乳してるな!…と思わずにはいられませんが、いや、それは大人になった今の時点での感想でありまして、当時、まだ8歳児だった僕は乳よりもむしろ、パンツのほうに興味がある健全な少年だったように思います。じゃ、乳は嫌いだったのか?…と言われると、ま、牛乳があまり好きでなかったことは間違いがないんですが、給食の牛乳もミルメーク無しで飲むのはかなりの苦痛だったりしましたからね。少なくとも牛の乳にはあまり興味がなかったと言ってもいいでしょう。 で、 青春歌年鑑 には収録されなかたったこの年のヒット曲としては、次のようなものがあります。

  ビューティフル・サンデー / ダニエル・ブーン
  ペッパー警部 / ピンク・レディ
  かけめぐる青春 / ビューティー・ペア
  酒と泪と男と女 / 河島英五
  思い出ぼろぼろ / 内藤やす子
  わかんねえだろうナ / 松鶴家千とせ
  東京砂漠 / 内山田洋とクールファイブ

 僕がこの原稿を書くにあたって参考にしている 『1970ー1999 売れたものアルバム』 という本は、よくよく調べてみると内容が微妙に怪しかったりすることもあるんですが、松鶴家千とせ「わかんねえだろうナ」 がヒットしたというのも、にわかには信じがたいものがあります。松鶴家千とせなんて、 『ヘッド・ハンターズ』 のハービー・ハンコックと髪型がよく似てるオッサン。…というくらいの認識しかなかったんですが、レコードを140万枚も売り捌いていたんですな。サバ君なんて、サバも満足にさばけなかったりするんですが、いや、大したものですな。 内山田洋とクールな5人組の 「東京砂漠」 もこの年のヒット曲だったんですね。サバ君はこの砂漠の歌がけっこう好きだったりします。 で、僕と同年代のギャルにとって、青春と言えばまさしく ピンクレディ であったと思われるわけなんですが、この 『青春歌年鑑』 には彼女たちの歌声が1曲も収録されていないんですよね。恐らく、レコード会社の派閥の関係ではないかと思うんですが、おかしいやん!…という声でも上がったのか、 『続・青春歌年鑑』のほうにはきっちり入っているみたいなんですけど。ミーちゃん、ケイちゃん抜きで岐阜の名物料理トンチャン、ケイチャンを語れるかというと、別に普通に語れるような気がするんですが、この2人を抜きにして昭和歌謡を語ることは出来ないような気がしないでもありません。2回の予定だった1976年の歌謡曲について語るシリーズは、場合によっては3〜4回シリーズということになるかも知れませんが、とりあえず “続” でないほうの前半、いってみましょうかー。

 まずは子門真人 「およげ!たいやきくん」 (作詞:高田ひろお/作曲:佐瀬寿一) なんですが、今回から曲名のところをクリックすると 歌ネット の該当ページに飛ぶようにしてみました。反社会的内容が掲載されたウェブサイトからのリンクはお断りなどと書いてありますが、うちのサイトはウェブマスターが大のパンツ好きであるという嫌いがあるものの、基本的には毒にも薬にもならないどうでもいい事しか書いてないので、ま、多分、大丈夫なのではなかろうかと。 で、この歌はアレです。日本の音楽史上でもっともヒットした曲として知られているわけですが、オリコン史上初のシングルチャート初登場1位・11週連続1位となり…などと、Wikipedia には書かれておりました。 現在までにオリコン調べで450万枚以上(オリコンにカウントされない売り上げを含めると、実際は500万枚を超えているともいわれる)のレコード・CDを売り上げているそうなんですが、いやこれは大変な数字ですよね。松鶴家千とせが3人束になってもタイヤキ1匹に叶わないわけなんですが、 「たいやきくん」 を超えるか?…とか言われていた 「だんご3兄弟」 も、結局は公称出荷枚数・約380万枚に留まってしまいました。ダンゴが3個串に刺さっても駄目だったわけです。たいやきくん、強し! そもそも子供向けのテレビ番組 『ひらけ!ポンキッキ』 から生まれた “お子様ソング” がどうしてこれだけ売れたのかと言うと、当時の “脱サラブーム” が影響しているのではないかと言われております。 当時、まだサラリーマンではなくて、ただの子供だった僕も、これからはもう、皿うどんを皿で食べるのはやめるっ!…と、脱皿宣言をしたくらいですからね。 ま、結局、サラリーマンをやめてラーメン屋などを開業してみても、大抵は失敗に終わることになるんですが、鉄板の上から海に逃げ出してみたものの、結局は釣られて食べられるという運命にある “たいやきくん” に、自分の姿を重ね合わせたというわけでありますな。 ちなみに、これを歌った子門真人はとっても頭がアフロだったんですが、松鶴家千とせといい、この時代はアフロブームだったんすかね?

 続いては、アフロにしたら絶対似合いそうもない都はるみ 「北の宿から」 (作詞:阿久悠/作曲:小林亜星) でありますか。去年、作詞家の阿久悠が死んじゃった時に、その代表作としてよく話題に上ってましたよね。 何でも、女心の未練でしょうか?という疑問系でなく、女心の未練でしょう♪…となっているところがこの歌の眼目なんだそうですが、当時8歳児だった僕にそんな微妙なニュアンスが分かる筈も無く、それどころか “未練” の意味すらよく分かってはいなくて、 “暖簾” の親戚みたいなものだと理解していたような覚えがあります。着てはもらえぬセーターは編むわ、暖簾は編むわ、かと思えば3番の歌詞でいきなり、あなた死んでもいいですか♪…とか言い出すわ、実に始末の悪い女でありますな。いや、暖簾を編むとはどこにも歌われていないような気もするんですけど。 それはそうとこれ、作曲したのが小林亜星だったんですな。「パッとサイデリア」とか、 『ひみつのアッコちゃん』 のエンディング・テーマ 「すきすきソング」 とか、そっち系統の曲しか作らない人なのかと思ったら、演歌も作曲したりするんですね。ちょっと意外でした。 意外と言えば当時の都はるみの年齢なんですが、コドモ心にも、何かめっちゃオバチャンくさい人が歌ってるな。…という印象があったんですが、生まれた年から計算してみると、28歳くらいだったりするんですよね。思ったよりも若いやん! 都はるみ、当時は微妙な年頃のギャルだったんですなぁ。

木綿のハンカチーフ

 で、続いては 「木綿のハンカチーフ」 (作詞:松本隆/作曲:筒美京平) 。 「雨だれ」 でデビューした太田裕美の最大のヒット作なんですが、この人はアレです。うちの会社の津の営業所で経理の仕事をしております。 いや、ただ名前が同じというだけで、恐らく違う人だとは思うんですが、歌手の太田裕美という人はよく、歌謡曲とニュー・ミュージックをつなぐ橋渡し的な存在と言われたりしますよね。男性歌手で橋渡し的な存在というと、橋幸夫かな?…という気がするんですが、この 「木綿のハンカチーフ」 を作詞したのは松本隆。 細野晴臣、大瀧詠一、鈴木茂と一緒に “はっぴいえんど” というバンドをやってたドラマーの彼が、職業作詞家に転じて初めて継続的に作品を提供することになったのが太田裕美なんだそうですが、彼は最初、歌謡曲をバカにしてたらしいんですけどね。何かと便利な Wikipedia によると、 「この詩には曲をつけられないだろう」 と作曲家の筒美京平に 「木綿のハンカチーフ」 の歌詞を持っていった所、あっさりと曲を付けられてしまいそれ以降作詞に没頭するようになる。…とのことなんですが、ちなみに僕はこれ、それほどの名作とは思えなかったりするんですけど。いろんなところで何度も聴かされて、すっかり飽きてしまったというのもあるのかも知れませんが、 「またこれかぁ。」 とか思ってしまうんですよね。下手にヒットしちゃうと、そういう弊害も出てくるわけです。

 ま、ひとつの歌の中に “彼パート” と “彼女パート” が交互に出てくるというのはなかなか斬新な発想だとは思うんですが、彼は郷里に愛する彼女を残して、就職のため、単身で都会に出ることになります。こいつら、中卒か?…と思ってしまうほど、特にギャルのほうの素朴さ、純朴さ、一途さが目立つわけなんですが、何とも、おぼこい感じがしますよね。対する男のほうは恐らく職場の先輩にキャバクラにでも連れていかれたのか、すっかり都会での生活にのぼせてしまって、かつての恋人の垢抜けなさを次第に疎ましく思うようになってしまいます。残された彼女がなんとも可哀想なんですが、ま、世の中、大抵そういうものだったりするんですけどね。物理的な距離が離れると、それだけ気持ちのほうも離れていくことになります。遠距離恋愛、難しいっす。 歌のほうは、捨てられた哀れな彼女が涙を吹く木綿のハンカチーフをねだるところで終わっておりますが、果たして彼がそのリクエストに応えたのか否か、ちょっと気になるところでありますな。 「そんなん自分で買えや!」 という返事が来たとするならば、彼女もきっと、ふっきれた事でありましょう。冷たい奴の事などきっぱり忘れて、地元でシジミ漁をしている漁師の息子を捕まえるなどしたほうが得策ではなかろうかと。花火大会の時に船に乗せて貰えて、とっても幸せな人生を送れるに違いありません。

 続いては中村雅俊 「俺たちの旅」 (作詞・作曲:小椋佳) でありますか。そんな歌は知らんという人も、夢の坂道は、木の葉模様の石畳、まばゆく白い長い壁♪…という出だしの部分を聴けば、「ああ、これかぁ!」 と、ポンと膝を叩いて、それで脚がぴょこんと上がれば、その人は脚気ではないということになります。ちゃんとオリザニンを摂取しているんでしょうな。いい事だと思います。少し前、富士フィルムか何かのコマーシャルで使われていましたよね。昔、テレビで 『俺たちの旅』 というドラマを見て青春を感じていた人が、今ではコマーシャルの企画を考える立場になったということだと思うんですが、ちなみに僕は、昔のテレビドラマと言うと 『噂の刑事トミーとマツ』 くらいしか記憶に残っておりません。こちらは放送開始が1979年らしいので、ドラマを理解出来るようになるには、小学校の高学年レベルの知能が必要ということになるのかも知れません。そんなことで僕は、中村雅俊のこの歌には何の思い入れもなかったりするんですが、作詞・作曲が小椋佳だということが判明して、なるほどなと思いました。言われてみれば確かにこれ、いかにも小椋佳系やな。…といった感じの仕上がりですもんね。小椋佳系では “けい” が2個続いて語呂が悪いので、今後は “小椋系” と略して表記しようと思うんですが、叙情的でしっとりしていて、それでいて、中盤以降は今ひとつ盛り上がりに欠けるところがあって、全体としては地味。 それがこの人の作品の特徴なんですが、ぼそぼそと呟くように歌えばいいので、カラオケでの難易度はわりと低めだったりするんですけど。 ただ、歌ってもまったく盛り上がりに欠けて、歌い終わっても誰からも気付いて貰えず、人知れずこっそりと自分の席に戻ることになって、「トイレに行っとったんか?」 とか言われてしまうところがネックだったりするんですけど。

横須賀ストーリー

 で、続いては山口百恵 「横須賀ストーリー」 (作詞:阿木燿子/作曲:宇崎竜童) 。 コドモ心にも、これっきりこれっきり、もう、これっきりですか♪…というフレーズが強烈に印象に残っているんですが、山口百恵のシングルとしては、これが始めての阿木燿子&宇崎竜童コンビの作品ということになります。宇崎竜童はダウン・タウン・ブギ・ウギ・バンドのリーダーとして、子供たちの間でも絶大なる知名度と人気を誇っていたんですが、それがトップ・アイドルである百恵ちゃんと組んだわけだから、これはもう、間違いなくヒットしますよね。 「ひと夏の経験」 で、純情エロ系ギャルとしてオッサンを悦ばせていた彼女が急に不良っぽくなってしまったので、夏休みが終わったら急にケバくなっていた女子高生を目の当たりにした思いに駆られた人も少なくないかと思うんですが、ただ可愛いだけの女から一歩先に進んだという点で、彼女にとってのターニング・ポイントと言える1曲でありましょう。百恵もこれでオトナの女になったな。…とか思ってしまいましたもんね、当時8歳児だった僕も。 オトナになって改めて歌詞を読み返してみると、竜童クンの奥さんの燿子たんは、ただならぬ才能の持ち主であったことに改めて気付かされるんですが、私は熱いミルクティーで、胸まで灼けてしまったようです♪…というあたり、実によく出来ていると思います。僕も極度の猫舌なので、熱いミルクティーでよく舌を火傷したりするんですよね。熱っ!…と、思わず紅茶を飲み込んでしまったりすると、胸まで灼けてしまったような気がしたものです。 竜童クンの書いた曲も、ブギウギしか作れない男というイメージを払拭するに必要十分なメロディアスな出来となっておりまして、秀逸です。

 ということで、次。 因幡晃 「わかって下さい」 (作詞・作曲:因幡晃) 。 僕の本名は “稲葉” なので、 “いなば・あきら” という名前は何となく赤の他人とは思えなかったりするんですが、親戚にもいますからね、あきら君。フィンガー・ファイブにもいますけどね、アキラ。 ただ、同じ “イナバ一族” とは言え、こんな因幡の白ウサギみたいな漢字を使っているようでは、1ランク下だと言われてもやむを得ないところなんですが、やはり稲の葉っぱであってこそ、はじめてイネミズゾウムシにカジられたりするわけですからね。実に立派な苗字ではないかと思います。 で、一方、そこまで立派ではない因幡さんちのアキラくんはというと、秋田の大館工業高校を卒業した後、しばらく鉱山技師をやっていたというのだから、何とも異色な経歴でありますな。 で、1975年、この 『わかって下さい』 を引っさげて第10回ヤマハ・ポピュラーソング・コンテストに出場して、見事、最優秀曲賞を受賞することになるんですが、当時、ポプコン出身の歌手というのは多かったですからね。ちなみに最優秀曲賞というのは最も優秀な曲に贈られる賞ではなく、その上にグランプリというのがあるわけなんですが、 第10回のポプコン・グランプリ に輝いたのは中島みゆき「時代」 。 最優秀曲賞には 「わかって下さい」 のほかにもう1曲、ON「失うものは何もない」 というのが選ばれております。そんな歌、一度も聴いたことがないような気がしますな。せっかく受賞しても、得られるものは何もない。…という状況だったようですが、入賞や川上賞の作品を見ても知ってる歌はひとつもないので、やはりグランプリを取らないと駄目みたいですね。アキラくんの場合、金メダルは逃しても、こうして 『塩サバ通信』 のレビューで取り上げられることになって、これほど名誉なことはありませんよね。

 作品としては、これはアレです。ギャルの視点で歌われた、いわゆる “オカマ歌謡” であるわけなんですが、フォークの世界ではわりとよくあるんですけどね。 いかにも叙情派フォークやな。…といった感じの、しっとりしたウェットな曲調なんですが、詞のほうは日本人の大好きな失恋系でありまして、ま、 「北の宿から」 の女を6歳ほど若くしたようなタイプですかね? いきなり、あなた死んでもいいですか?…などと、返答に困るようなことを言い出すわけではないんですが、貴方の愛した人の名前は、あの夏の日と共に忘れたでしょう♪…と、捨てられた自分の立場を分かっていながら、それでもまだ、ときおり手紙を書きます…ってか? それが “女心の未練” というヤツなんすかね? わかって下さいと言われても、僕はどうにも理解に苦しんでしまうんですが、ちなみに、二人でそろえた黄色いティーカップが今もあるかどうかは微妙なところでありますな。 ま、恐らくは捨てられているか、猫の餌入れとかに流用されているかの、どちらかのような気もするんですけど。

 この年のポプコンのグランプリが中島みゆきだったり、地味ながら小椋佳がそれなりに頑張っていたりということからも、いよいよ歌謡曲の世界にもニュー・ミュージックの旋風が巻き起こりつつあるな。…ということが分かるわけなんですが、そこに更に荒井由実 「あの日にかえりたい」 (作詞・作曲:荒井由実) が加わることになれば、これでもう完璧でありますな。ちなみに荒井由実はこの年、作曲家兼音楽プロデューサーの松任谷正隆と結婚して、芸名も松任谷由実に変えることになるんですが、こういう例はちょっと珍しいんじゃないんですかね? それだけ正隆クンのことを愛していたのか、それとも荒井という苗字が何だか荒井注みたいで、心の底から嫌だったのか。 ま、それも結婚した相手が “松任谷” などという真っ当でカッコいい苗字だからよかったようなものの、これがもし珍道クンとかだったら、さすがに彼女も珍道由実とは名乗らなかったでしょう。高校の時、同じクラスにいたんですけどね、珍道クン。あまりモテなさそうな顔をしてましたけど。 で、この歌はアレです。文句なしに名曲です。 泣きながらちぎった写真を、手のひらにつなげてみるの♪ という出だしのメロディが素晴らしいし、青春の後ろ姿を、人はみな忘れてしまう♪ というサビのフレーズは、子供だった僕の頭の中にも深く刷り込まれております。 “青春” という言葉を聞くと、反射的に “後ろ姿” やよな。…と思ってしまうほどなんですが、この歌を聴くと本当に “あの日” に帰りたくなっちゃいますよね。 “あの日” というのは大垣の土○事務所に冷却水タンク取替の見積書を提出した日のことなんですが、 「冷却水タンク取替一式」 で土建屋から出てきた見積もりに、適当にピンハネ分だけ上乗せして提出したんですけどね。 めでたく工事を受注したのはいいんですが、出来上がったタンクは元のものとは似ても似つかぬ形のものになってしまって、入口と出口の配管は全部やり直さないとアカンわ、電気工事も必要になってくるわ、おまけに原材料が値上がりしたということで、土建屋からは最初の見積もりより30万も高い請求書が送られてくるわで、受注金額が130万であるのに対して、仕入金額が175万くらいになっちゃいそうです。もう、泣きながら契約書をちぎりたい気分でありますが、もし “あの日” に戻れるなら、見積もり金額を倍にして提出し直したいところでありますなぁ。。。

赤いハイヒール

 で、続いては太田裕美 「赤いハイヒール」 (作詞:松本隆/作曲:筒美京平) なんですが、これはアレです。 「木綿のハンカチーフ」 の、まるっきり正反対バージョンだと思っていただければ、よろしいのではなかろうかと。 天下の “マツタカ&筒キョン” コンビともあろうものが、2匹目のドジョウ狙いか。…と思わずにはいられませんが、ま、前作があれほど評判になってしまうと、それと「まったく違う路線にするというのも、かなり勇気がいるわけなんですけどね。下手をすると “一発屋” で終わってしまう恐れがあるので、どうしても安全パイを切りたくなるところなんですが、今回は就職のために単身で都会に出て行った彼女と、それを郷里で待つ彼氏というシチュエーションでありますな。 「木綿のハンカチーフ」 とは、まるっと裏返しです。彼氏のほうがまだ未練タラタラで、彼女に故郷に戻って欲しいと切望しているワケなんですが、彼女のほうが都会の悪い水に染まって援助交際やフーゾク勤務に走ったりしない点は、前作とはちょっとパターンが違うんですけどね。ギャルは常に “いい人” として描かれているわけであります。 詞のほうで着目すべきポイントは、そばかすお嬢さん♪…というフレーズなんですが、何だかこう、昭和を感じさせるギャルでありますな。純朴さと垢抜けなさを “そばかす” という一言で表現するあたり、松本隆の面目躍如といったところですが、一方の曲のほうはと言うと、しっとり系のバラードで来ていたのが、 “そばかすお嬢さん” のところで一転、ちゃんちゃんちゃんちゃん♪…というやや間抜けな間奏を挟み、テンポが少し早くなって、雰囲気もやや明るくなるというあたり、彼氏の能天気な性格を垣間見ることが出来て、なかなか秀逸だと思います。二番煎じでも、それなりの味は出ていると言えるかも知れません。

 で、続いては小椋佳 「めまい」 (作詞・作曲:小椋佳) 。叙情的でしっとりしていて、それでいて、中盤以降は今ひとつ盛り上がりに欠けるところがあって、全体としては地味。…という彼の持ち味が遺憾なく発揮されている作品として、多いに評価していいのではないかと思うんですが、ま、やはり、カラオケでいくらうまく歌ってみたところで、絶対に盛り上がらない曲であるのは間違いありません。うちの会社の常務がやはり “小椋” という苗字なんですが、その印象があるせいか、どうにもあまり好きになれなかったりするんですよね、小椋佳。 本人には何の責任もないことなので、ちょっと可哀想だとは思うんですけど。

 とまあ、そんなことで、 「'76-1…の前編」 はおしまい。本来なら前半の15曲を紹介しなければならんのですが、今回はちょっとよんどころない事情があって、ここで時間切れとなっちゃいました。 次回は残ってしまった6曲を簡単に片付けて 「'76-1…の後編」 とするか、もしくはもうちょっと頑張って更に3〜6曲にレビューを加え、 「'76-1…の後編&'76-2…の前編」 とするか、どちらかにしようと思うわけなんですが、それなら最初から 「'76-1」 「'76-2」「'76-3」 という分け方にしたほうがよかったような気もするんですが、とにかくまあそんなことで、次回に続きます。

( つづく♪ )


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