キャンディーズ / 『 微笑がえし 』

〜最後にして初めての栄光〜



 人は大きく2つのタイプに分類することが出来ます。すなわち“ピンクレディ派”か“キャンディーズ派”か。無論、世の中には“んなこたぁ、どうでもいい”という無関心な人々や、“そもそもピンクレディって、誰?”というヤングな人、あるいは“スキャンティーズなら知ってるけどな、ガハハ”というオジサンなんかもいるわけですが、あ、“スキャンティーズ”というのはアレです。日活ロマンポルノのアイドル、寺島まゆみ太田あや子北原理恵の3人組をひっくるめた場合の愛称ではなかったかと思われます。ま、思惑とは裏腹に寺島まゆみ以外はさほどブレイクしなかったようなんですが、ちなみに寺島まゆみというのは“ポルノ界の松田聖子”というキャッチフレーズで売り出したんでしたっけね?それに引きかえ、大田あや子というのは何だか“ポルノ界の演歌歌手”みたいなネーミングが失敗の一因ではなかったかと思われるわけですが、そんなことはどうでもよくて、キャンディーズですね。キャンディーズ派の人たちの言い分として、キャンディーズの一体どこがいいのかというと、…というか、ライバルであるピンクレディのどこがいけなかったのかというと、“なによりも歌がへんてこりんなのばっかりで、どうしてこんなものがはやるのか理解に苦しむ小学生であったと思います。”という某レーザー技士の告白が示すように、歌が圧倒的にヘンだったのがよくありません。僕もどうしてこんなものがはやるのか理解に苦しむ小学生であったわけでありますが、いやあ、かれい技師とは気が合いますなぁ。特に「サウスポー」という歌は、“王せんしゅ”をばかにしていて、よくない。…という理由で、ジャイアンツ・ファンの少年たちから絶大なる不支持を得ていたわけですが、僕も王せんしゅをばかにするのはよくないなぁ。…という意見に賛意を示す少年でありました。いや、当時は巨人ファンでしたからねぇ、僕。今でこそ阪神&近鉄ファンに転じてはおりますが、やはり王監督を便器にするというのはよくないことだと思います。で、この週末に 「ペッパー警部」「S・O・S」「渚のシンドバッド」「サウスポー」 の4曲を“WinMX”で落とすことに成功したので、改めて真っ白な心で聴きなおしてみたんですが、いやあ、「S・O・S」のいうのは意外と悪くないですな。オトメの貞操教育としては申し分のない内容でありまして、メロディ的にも “えっす・おー・えっす(チャチャ)、えっす・おー・えっす(チャチャ)♪” の手拍子のところが実にノリがよくて、よかったと思います。で、「渚のシンドバッド」というのも彼女たちにしてみればまだ小マシな内容となっておりました。ただ、“私はイチコロでダウンよ〜♪”と、あっさりシンドバッドに落とされているあたり、貞操教育の不毛性を如実に示しておりまして、どうせ不毛なら、貞操よりも剃毛教育のほうがよかったかも知れませんなぁ。。。

 で、キャンディーズ派キャンディーズを推し進める理由として、“お笑いが出来るから”というのが結構あったんですが、確かにドリフの番組に出演していた彼女たちには“元祖バラドル”といった要素もありましたよね。ただ、哀しいかな、こと日本において“お笑い”というのは1ランク低い芸能であると見なされる傾向にありまして、例えばジャズ系サイトにしても、お笑い下仁田を売りにしているところは今ひとつ評価も高くないようです。ま、幸いにも“jazz giant”は硬派が売り物なので、間違い無く後世に残るジャズ評論の金字塔…とまで言われているわけでありますが、キャンディーズに対する評価は一部マニア的に高い人気はあったものの、今から思えば意外なほど低かったというのが実情のようでありまして。例えば君はキャンディーズのヒット曲を何曲歌えるかな?いや、“WinMX”で彼女たちの歌を落とそうとして、意外とその数が少ないということに気がついたんですよね。活動期間が短かったということもあるかも知れませんが、ピンクレディに比べて、意外とキャンディーズの歌を知らない自分に気付いて、愕然とするハズです。その事実を顕著に示す実例として、よしもと新喜劇の“ひょっとこ替え歌”があるんですが、辻本茂男が歌うのはいつもピンクレディ特集ですよね。”ひょーっとこ人間、あらわるらわる〜♪”とか、“背番号1の凄いヤツがひょっとこ〜♪”とか、“う〜ん、ひょっとこ!”(←「ウォンテッド」の節で)とか、“ひょっとぉこぉ〜♪”(←「渚のシンドバッド」の出だし部分、“あーんああんあん♪”の節で) とか。 ピンクレディ以外では、“緑の中を走り抜けてく真っ赤なひょっとこ♪”…というのもありますが、キャンディーズの歌が出てきた例(ためし)はなく、お笑いの本場の大阪にしてこの現実というのは、ちょっぴり寂しいものがありますなぁ。ま、ただ辻本クンピンクレディ派だった…というだけのことなのかも知れませんけど。

 ではここで、キャンディーズの歴史について簡単に振り返ってみたいと思いますが、えーと、デビューは1973年「あなたに夢中」(作詞:山上路夫 作曲:森田公一)でありますかぁ。森田公一って、「これが青春だ」の人ですよね。…って、それは健作のほうですね。森田公一というのはトップギャランの人ですかね?いずれにせよ、僕はこの「あなたに夢中」という歌に関しては、まったくもって記憶にありません。それもそのはず、1973年といえば僕は弱冠5ちゃいでありまして、キャンディーズのデビューって、そんな昔だったんですかぁ。ちょっと意外な感じがしました。で、メンバーはご存知、ランちゃんスーちゃんミキちゃんです。この順番は語呂的なものなのか、あるいは人には言えない内部的な権力闘争の結果なのか、たとえ僕がスーちゃんのファンだからって、“スー・ミキ・ラン”という順番で言ったりはしません。いついかなる場合にも“ラン・スー・ミキ”という順になります。ちなみにピンクレディの場合は“ミーとケイ”ですよね。レッツゴー3匹ジュンちゃんが最初でしたか。で、スーちゃんミキちゃんが1956年生まれ、リーダー役のランちゃんがひとつ年上で1955年生まれです。スーちゃん、ミキちゃんはちょうど僕の一回り上ということになりますね。ということは現在、47歳くらいということになるわけですかぁ。うーん、時の流れというのは恐ろしいものですね。

 で、キャンディーズの過小評価具合でありますが、このデビュー曲「あなたに夢中」の最高順位(←たぶん“オリコン”)は、わずか33位でしかありません。これはもう、一部の熱心なファンの間でひそかに話題になった程度…といったランクでありまして、決して華々しいスタートを切ったというわけではなかったんですな。相撲の番付で言えば、幕下3枚目あたりですよね。で、74年発売の「そよ風のくちづけ」(作詞:山上路夫 作曲:森田公一)が最高37位と、番付を4枚ほど落としております。ちなみにデビュー・シングルのB面は「なみだ草」、セカンド・シングルのB面は「桜草のかなしみ」という曲で、演歌的というか草花好きというか、コンセプトとしては“和風純粋路線”だったと言えるかも知れません。で、この年には計3枚のシングルを出しているんですが、いずれも最高でも40位程度と苦悩の日々が続いております。で、彼女たちの最初のメジャー・ヒットと言うと、75年発売の「年下の男の子」ということになりますね。残念ながら森田公一クンは見切りをつけられたようでありまして、4作目の「なみだの季節」からは(作詞:千家和也 作曲:穂口雄右)のコンビに変わっておりますが、これが結果的にキャンディーズに栄光をもたらせたと言えるかも知れません。流行りましたもんね、「年下の男の子」。この歌を聴いて、年上の女の子というのもちょっといいかな?…と思ってしまった男の子は少なくないと思いますが、ちょっぴりおませなお姉さんに“アイツはアイツは可愛い〜♪”とか、言ってもらいたいよね?幸いにも僕は年上のお姉さんから「カワイイ♪」と言われるタイプだったからよかったんですが、ブサイクで可愛くない少年はきっとこの歌を聴いて心が痛んだろうなぁ。…と思うと、ちょっぴり申し訳ない気持ちになってしまいます。で、これほどメジャーな有名曲でありながら、チャートの最高順位が6位どまりというのは意外な気もするんですが、ま、前作が40位くらいだったから、一挙に小結あたりまで番付を上げるきっかけになった彼女たちにとっての記念碑的な作品であったということは間違いありません。

 はい、次。「ハートのエースが出てこない」。一時期、アンタじゃ駄目や。…という烙印を押されてしまった森田公一クンが汚名返上を果たしたスマッシュ・ヒットです。ちなみに作詞は竜真知子という人ですな。「年下〜」で大ブレイクの気配も、続く「内気なあいつ」18位「その気にさせないで」17位どまりと低迷して、いや、確かに 「内気なあいつ」 って、いかにも二番煎じっぽいですもんね。そこでマンネリ打破のため、初心に返って森田公一クンの起用と相成ったんでしょうが、見事その期待に応えて3作ぶりにベスト10入りを果たしております。が、最高でも9位というのは、何だか意外なまでに低い人気であるという気がしますよね。森田公一くん、完全復活ならず。…といったところで、76年からは再び穂口雄右がキャンディーズの作品を手がけることになります。心に何か期するものがあったのでしょう。穂口クンは自ら作詞のほうも買って出たわけでありますが、その結果生まれたのが彼女たちの代表曲と言える 「春一番」 。いや、これは名曲ですな。いかにも春らしい明るい曲調と歌詞が印象的でありまして、今でもニュースで“春一番”という言葉を耳にすると、思わず、“春一番が〜、掃除したてのサッシの窓に〜♪”と歌ってしまうおじさんは少なくないと思います。いや、それはまた違う歌なんですけどね。「春一番」は、“雪がとけて川になって流れていきます〜、つくしの子が恥ずかしげに顔を出します〜♪”のほうですね。“もうすぐ春ですね、彼を誘ってみませんか〜♪”という歌詞からして能天気なラブラブ・ソングかと思っていたら、改めて聴いてみると、“彼とは1年前に別れちゃったのぉ。。。”というシチュエーションだったんですな。サヨナラを言ったのは、去年の春でしたね。ひとつオトナになって、忘れませんかぁ?…って、そういう無邪気なところがカワイイっ♪…と思ってしまいましたが、オリコンチャート(←たぶん)の最高順位は、惜しくも2位どまり山口百恵「愛に走って」 という歌に首位を阻まれたようなんですが、そんな歌、ありましたっけ?

 で、その3ヵ月後には 「夏が来た!」 というのを出しております。前作と同じく穂口雄右の作詞・作曲によるものなんですが、どうもこの人、一度成功すると二番煎じに走る傾向にあるようで、ただ、ほとんど記憶には残っていない歌であるにもかかわらず、チャート上では最高3位と、まずまず検討しております。キャンディーズもようやく、出せばそこそこは売れる…という程度の一般的な人気を獲得したようですな。…と思っていたら、「ハート泥棒」(作詞:林春生 作曲:杉山こういち)が8位「哀愁のシンフォニー」(作詞:なかにし礼 作曲:三木たかし)が10位と、名前を言われても歌えない歌が続いたりします。というか、曲名すら記憶にないような気もするんですが、3枚出して1枚くらいのペースでそこそこのヒットを出してる感じですね。で、何とか連続して売れるようになったのが77年のことでありまして、まずは「やさしい悪魔」(作詞:喜多條忠 作曲:吉田拓郎)というのがそこそこヒットしております。ついに吉田拓郎を持ってきたかぁ。…という感じでありますが、どういう曲だったのか僕の記憶にはありません。で、拓郎の力を持ってしても最高は3位どまりでありまして、続く「暑中お見舞い申し上げます」(作詞:喜多條忠 作曲;佐瀬寿一)は意外にも4位どまり。 僕でも歌える数少ないキャンディーズの歌でありまして、いや、知っているというだけの話で。実際に人前で歌ってみるといった恥晒しな行為はさすがに自重しておりますが、どうせ僕、歌、下手だしぃ。。。

 …と自嘲的につぶやいて、「アン・ドゥ・トロワ」。2作目になる拓郎ソングでありますが、今度は5位どまり。僕はこんな歌、知りません。続く「わな」(作詞:島武実 作曲:穂口雄右)というのは惜しくも2位どまりでありまして、ま、いずれにせよ、1年を通じてコンスタントにベスト10入りを果たしたわけでありまして、名実共にキャンディーズの絶頂期と言えるのがこの1977年という年でありました。ところがいよいよこれから!…という時になって、キャンディーズはいきなり解散宣言をしちゃうんですよね。いやあ、ショックでした。77年といえば僕は9ちゃいでありまして、物心ついた頃には解散宣言していた。…というわけでありまして、その意味で僕はキャンディーズをリアルタイムで体験したというには少し若すぎる世代であったと言えるかも知れません。ということで、僕の心にいちばん強く刻み込まれているのはラスト・シングルの「微笑がえし」(作詞:阿木燿子 作曲:穂口雄右)でありまして、“ケーブルテレビでは「ドリフの大爆笑」をやっていたりするのですが、この間この番組でキャンディーズの「微笑みがえし」を聴いて久方ぶりに目頭を熱くしてしまいました。”…という、かれい技士の気持ちはよぉくわかります。いや、僕のほうが数年だけヤングなような気はするんですけど。

 “明るい曲調でありながら解散を暗示する歌詞のかわいた寂しさが大変よくマッチしている名曲です。”…って、いや、なかなかうまいこと言いますなぁ。今後、このコーナーの執筆はかれい技師にまかせておこうと思いますが、この 「微笑がえし」 というのは先ほどおじさんが間違えて歌っていた“春一番が〜、掃除したてのサッシの窓に〜♪”というヤツでありますな。いきなり歌詞が“春一番が〜”なんだもん。そりゃ、勘違いするって!…と、おじさんは言いたいところかも知れませんが、これに限らず、かつてのキャンディーズのヒット曲のタイトルが歌詞のそこかしこに出てくるところが面白いですよね。作詞を担当したのが、キャンディーズの歌を手がけるのは始めてだった阿木燿子であるからこそ、こういうお遊びが出来たのかも知れませんね。どうしても見つからなかった“ハートのエース”がひょっこり出てくるあたり、実に洒落た演出でありますが、となると井上陽水が探していた“探し物はなんですか〜”の探し物の行方が気になるところでありますな。ウフフ〜♪とか歌って踊ってないで、探し物を探せよ!…とか思ってしまいましたもんね。ま、不思議なものね、忘れた頃に見つかるなんて〜♪…というあたりは、“探し物をやめた時、見つかることはよくある話で”という陽水のコンセプトに会い通ずるものがあるんですが、“いつまでたっても年下の人〜♪”というフレーズには笑いましたな。そりゃ、そうやろう。…と思わずにはいられませんでした。で、子供の頃にはどういうわけだか、“いやだわシャツで顔拭いて〜、おかしくて涙が出そう〜♪”というところが妙に気になっておりました。いつまでたっても子供っぽさが抜けない男と(←年下だしぃ。)と、それを温かく見守る年上のお姉さん。どういうきっかけがあって2人が“お別れ”に至ったのか当時の僕には今ひとつよく理解出来なかったんですが、今から思えばこれほど明るく御陽気に“別れ”を歌った歌も珍しいですよね。それ故により一層、聴き終えた後でジーンと目頭が熱くなっちゃうんだよねぇ、かれい君。

 で、今回改めて聴き直してみて、いいな♪…と思ったのが、“いちにっさ〜ん、3つ数えて、いちにっさ〜ん、見つめ合ったら私たち、お別れなんですね〜♪”というフレーズなんですが、“3つ”と“見つめ”で韻を踏んでいるところがお洒落ですよね。ただ、“いちにっさ〜ん♪”というのはちょっと言いにくいんぢゃないか?…という気もするんですが、ちなみに1番の歌詞では“わんつぅーすりぃー♪”、3番の歌詞では曲名に引っ掛けて“あんどぅとろわ♪”となっております。ところで僕は、この 「微笑がえし」 というタイトルを目にすると 「仏壇返し」 という言葉を思い出してしまい、コゾクラ1号(←呼び捨てかい。)が昔、そんなネタを書いていたなぁ。…と、何だか不快な気分になってしまうんですが、キャンディーズはこの 「微笑がえし」 で初めて、チャートの第1位を獲得したのでありました。

( おしまい♪ )


INDEX
BACK NEXT