『 イージートランペット EZ-TP (最終回) (YAMAHA) 』



 パチモンくさいとは言え、念願のトランペット (もどき) を手に入れて、コーフン冷めやらぬまま書いてしまった (第1回) から早や2週間。 僕もすっかり落ち着きを取り戻しましたが、いや、 “イージートランペット” を手にする機会もめっきり少なくなってしまいました。早くも飽きちゃった。…という事実はあまり認めたくないところではありますが、ここまで書いた以上は、とりあえず最後まで面倒を見なければなりません。そこでまあ、プレイモード1「歌って演奏しよう」 にチャンレンジするところから続きを書こうと思うんですが、これはアレです。もうほとんど、半自動演奏のようなものでありまして。 例えば、あらかじめ用意されている 「ロッキーのテーマ」 を歌って演奏するには、自動伴奏に合わせて 「ア〜タ〜」 と適当に声を出しておけば大丈夫でありまして、声を出したタイミングにあわせてイージートランペットがトランペット風の音色を出力して下さいます。音程のほうは最初からプログラミングされているので何も考える必要はなく、別に 「ロッキーのテーマ」 を歌う必要はありません。 「ア〜タ〜」 と、一本調子に棒読み…というか、棒歌いしていれば大丈夫なんですよね。これはもう、とっても簡単だねっ♪…といった感じでありまして、声を出すタイミングさえきっちりしていればいいわけですもんね。 きっちりしていないと駄目なのか? てっちりでは駄目なのか?…というと、さすがにフグの鍋ではどうにもならないので、これだけは自力でなんとかしなければなりませんが、そのタイミングはLEDの点滅で知らせてくれるので、それほど心配しなくても大丈夫でありまして。

 このイージートランペット…と、毎回フルネームで書くのは面倒なので、以下、 “イートラ” と略しますが、このイートラには3つのバルブにそれぞれLEDが付いていて、押えるべきバルブをガイドしてくれる仕組みになっているんですよね。 “歌って演奏モード” の場合、このバルブ操作は無視しても構わないんですが、声を出すタイミングはランプの点滅と連動しますので、それに合わせて 「ア〜タ〜」 と棒歌いすればいいわけです。ただ、ここで問題になってくるのはトランペットのバルブ操作に “3つとも押さない” というポジションが存在することでありまして、この場合、当然ランプはどれも点灯しないことになるので、どうしても 「ア〜」 と声を出すのを忘れてしまうんですよね。すると本当のメロディと実際に出てくる音との間にズレが生じてきて、ワケがわからなくなって、もういいっ!…ということになって、しばらくはイートラを手にしなくなる放置状態に陥ってしまいます。いや、ヤマハくんのアイデアもなかなかいい線までは行ったんだけど、最後の詰めのところでちょっと甘さが出てしまったよね。…という気がしますよね。

 …と思っていたら、ヤマハくんもあながちアホではありませんでした。というか、意外と賢かったんだね。…ということが明らかになったんですが、バルブの光らせ方として、押えるべきバルブを光らせるモードのほかに、声を出すタイミングで光らせるというモードも選択出来るようになっておりました。押えるべきバルブを光らせるモード…と、いちいちフルネームで書くのは面倒なので、以下 “普通モード” と省略しますが、この普通モードでも光るのは声を出すタイミングと同じなんですが、これを “タイミングだけモード” にすると実際に押えるバルブとは一切関係なく、 “” “” “” と順番に1つずつ点灯することになるんですよね。これで “3つとも押えないポジション問題” は解決。 この事実が判明して、僕のイートラに対する評価は、けっこう使えるぢゃん!…というところにまで高まったわけでありますが、いや、これで本当に簡単にメロディが吹けちゃいますもんね。ただ問題は右手の指がまったく動いていないことでありまして、これでは傍から見ていても “なんちゃってトランペッター” であることがバレバレでありますな。別にバルブを押えてみたところで余計な音が出るわけではないので、適当に右手の指を動かしてやればそれっぽく見えるのかも知れませんが、すると声を出すほうがおろそかになって演奏がめちゃくちゃになってしまって、いや人間、同時に違った2つのことをやるというのはなかなか難しいものでありまして。。。

 で、向上心のある人はですね、プレイモード2「バルブを押さえて演奏」 というのにチャレンジしてみましょう。あ、その前にひとつ書くのを忘れておりましたが、声の出し方として説明書にあるような 「ア〜」 や 「タ〜」 では、どうも今ひとつ具合がよくないんですよね。ま、 「タ〜」 なんてのは最初から駄目だと思っていたんですが、 「歌って演奏モード」 の場合、声の出し方にある程度メリハリを付けてやらないと、なかなか次の音程に切り替わらないわけでありまして。そこで登場するのが小学生の頃に音楽の授業で習ったタンギングという手法でありますな。僕はバイキングというのは好きなんですが、タンギングはそれほど好きではなく、子供の頃も適当にしか練習しなかったんですが、えーと、どうやるんでしたっけ? 確か、トゥトゥトゥトゥトゥ♪…と声に出すように笛を吹けばよかったんですよね。で、試してみるとなるほど、これがなかなか効果的でありまして、イートラの正しい発生はどうやら 「ア〜」 でも 「タ〜」 でもなくて、 「トゥ〜」 ということに落ち着くようです。

 ということで、第2段階の 「バルブを押さえて演奏」 でありますが、これは先ほどのようにバルブは無視して声だけで何とかなるというものではなく、きちんと所定のバルブを正しく押えなければなりません。ただ逆に “声の部” のほうは不要となりますのでマウスピースに口を近づける必要はなく、座布団の上に楽器を置いて大正琴のようにバルブを押えて演奏することだって可能です。いや、傍から見ると、何しとんねん?…と言いたくなるような光景になっちゃうような気もしますけど。 で、押えるバルブは光でガイドしてくれるから、とっても簡単だねっ♪…と思っていたんですが、実際にやってみるとこれがなかなか難しいのでありまして。バルブ1個ずつならまだ何とかならないこともないんですが、場合によっては2本とか3本の指を同時に動かさなければならないので、これはもう至難の業であると言っていいでしょう。ま、正しいバルブを押えることが出来るまで伴奏のほうはストップして待っていてくれますので、気長に練習するしかありありませんな。で、この際、注意しなければならないのは “タイミングだけモード” を “通常モード” に戻すのを忘れないことでありまして、これをやらないと、間違いなく光っているバルブを押えているのに、どうして演奏が前に進まん?…と、しばし悩む破目になってしまいます。僕なんかこれで30秒ほど悩みましたからね。それにしても何ですな。光って教えてくれるにも関らずこれほど難しいということは、何のガイドも無しに演奏出来る人というのは、もはや神業としか思えませんよね。今まで馬鹿にしていた2流のトランペッターさえ天才に思えて来ますが、いや、ラズウェル細木の漫画にもそういうのがありましたよね。発作的にアルトサックスを買ってみたものの、まったくモノにはならず、ギャルの前で大恥をかく。…みたいなのが。僕はそれを読んで本物のサックスやトランペットを買うのはヤメにしたんですが、イージートランペットでもこの有様でありますので、いやあ、楽器を吹くというのは本当に難しいものでありますなぁ。。。

 で、このレベルをクリアしちゃった上級者のために、 「歌いながらバルブを押さえて演奏」 というのも用意されております。ここまで来ると、声を出すのと、正しくバルブを押えるという2つの作業を同時進行でこなさねばならなくて、しかもバルブの押さえ方を間違えてもガイドランプのほうは待ってはくれないので、おそらく普通の人なら最初の2音を出すのが限界で、それ以降は無茶苦茶になっちゃうに違いありません。譜面どおりに吹けないのなら、一層のことフリー・インプロヴィゼーションで…と思って適当にやろうとしても、やはり無茶苦茶な騒音にしかならず、いや、フリージャズというのもアレはアレで意外と難しいものだったんですなぁ。…ということが分かって、結局のところはプレイモード1「歌って演奏しよう」 というのが僕のリミットであることが判明しました。いや、このモードがついていたおかげで3万円がゴミと化さずに、本当によかったと思います。もうちょっとでウインドサーフィンの用具一式を買ったんだけど、流されてすっかり嫌になって木曽川に姿を見せなくなった “べにやのオッサン” と化すところでありました。

 自由にメロディを奏でることが事実上不可能であることが判明した以上、最後の頼りは自動演奏用のソング・データだけとなりますが、プリセットされた21曲だけでは、どうしてもすぐに飽きちゃいます。特に “凱旋の合唱(歌劇「アイーダ」より)” なんてのは、相田みつをと同じくらいソソられるものがないので、実質的に使えるのは半分くらいといった感じでありまして。そこで必然的にパソコン経由で MIDIデータを取り込む必要が生じてくるんですが、それには “USB-MIDIインターフェース:UX16” というのを買わなければならないので、何だかこう、ヤマハくんの思うツボ…という気がしてならないんですが、その分、データのほうは大量に用意されているんですけどね。とりあえず ここ を見てください。おお、ジャズ・フュージョンだけで 759曲っ!これだけあればもう、1日1曲ずつダウンロードしても2年間は大丈夫でありますな。ただ、MIDIデータは1曲あたり 210円も取られるので、完全制覇するには 15万9390円もかかってしまいますが、月間定額サービスを使えば 525円で 1ヶ月間に 5曲まで落とせるので、ま、週イチくらいのペースでレパートリーを増やしていくのが経済的であると言えましょう。で、このMIDIデータのすごいところはですね、曲によってはジャズ・ミュージシャンのアドリブ・パートまで忠実にデータ化されていることでありまして、例えばマイルス・デイビスの 「ラウンド・ミッドナイト」 などは完璧な出来であると言えましょう。ちなみにマイルスのこの曲に関してはデータが3種類あるんですが、コルトレーンが入っているおなじみのバージョンがいちばん出来がいいので、試聴して確認する必要があります。ひとつは何故だかピアノ・トリオの演奏だったりしますからね。で、音色をミュート・トランペットにしてトレーン入りバージョンを吹くと、本当に自分がマイルスになった気分になれることは請け合いでありまして、心の底から、3万ウン千円をはたいただけの価値はあった!…と思ってしまいます。ただひとつこの演奏には問題点がありまして、それは何かというと、コルトレーンのソロパートの間は、なにもすることがないっ!…ということなんですが、ま、自分の出番が終わったら舞台の袖に引っ込んで、お茶でも飲んでいればいいんですけど。あともう一点、この演奏でいちばん気分が高揚する、コルトレーンのソロが出てくる直前の部分がありますよね。あの、ぱっぱっぱー、ぱー、ぱー、ぴゃ〜♪…というところで、どういうわけだかマイルスの出番がなくて、いくら頑張って声を出してもトランペットの音が出てくれないので、何だか肩透かしをくったような気分になってしまいます。

 が、アドリブ・パートの完全データ化というのは大変に面倒な作業でありますので、残念ながら全759曲中でこれがなされているのはほんの一握りであるのが実情です。ミュージシャンの名前がきちんと明記されているものはアドリブ付きであると判断していいと思いますが、ただこのMIDIデータはイージートランペット専用のものではありませんので、相性のよくないものも少なくありません。基本的にピアノ系のデータは駄目ですな。ピアノの音データは和音で出来ておりますが、イートラは一度にひとつの音しか出せないので、まともなメロディになりません。ま、ピアノ系でも初級者練習用なら大丈夫かも知れませんけど。落としてみて、駄目ぢゃん!…ということにならないよう、管楽器系の演奏データを選んでおいたほうが無難だとは思いますけどね。ちなみに僕が試してみて、使えるかも?…と判断した楽曲は次の通りであります。

 マイルス・デイビス 「バイバイ・ブラックバード」
 マイルス・デイビス 「マイルストーンズ」
 リー・モーガン 「ザ・サイドワインダー」
 ジャズ・メッセンジャーズ 「モーニン」
 ハービー・ハンコック 「ドルフィン・ダンス」
 ハービー・ハンコック 「カンタロープ・アイランド」
 カーティス・フラー 「5スポット・アフター・ダーク」
 荒井由実 「中央フリーウェイ」
 上田正樹 「悲しい色やね」

  「ザ・サイドワインダー」 は聴いている分にはあまり好きではなかったんですが、自分で吹いてみると、これがまた楽しい♪…んですよね。いや、“歌って演奏モード” でも精一杯という感じなんですが、インチキでも、まやかしでも、モーガンもどきのフレーズが吹けるというのは、もの凄い快感でありました。その意味では 「モーニン」 も期待度は大だったんですが、ことらはMIDIデータの出来がどうも今ひとつなのが残念なところ。ちなみに音色のほうは何種類もあるトランペット系の中で、 “ハード・トランペット” というのが一番それらしく聞こえます。 「5スポット・アフター・ダーク」 は音色をトロンボーンにして、カーティス・フラーするための曲でありますが、肝心のトロンボーンの音があまりよくないのが残念なところ。ま、アドリブの譜割があまり細かくないので、演奏するにはラクなんですけどね。 で、ハービーはピアニストでありますが、この2曲はフレディ・ハバードがメロディを吹いているので大丈夫です。特に 「ドルフィン・ダンス」 はテンポもゆっくりなので、オススメの1曲であると言えましょう。もっともアドリブ・パートは “歌って演奏モード” でもかなり厳しいものがありますけどね。こんなの、普通のトランペットでよく吹けるものでありますなぁ。。。

 ジャンルをジャズに限定しなければ、そのレパートリーは10倍くらいに増えます。もっとも僕の場合、 “平成のうた” というのはまったく知らないので、演奏が出来そうなのは “昭和歌謡全集” に限られるんですが、僕が大好きな新井薫子の歌はないんですね。仕方がないので荒井由美「中央フリーウェイ」 で妥協するとして、あと、僕の数少ないカラオケ・レパートリーのひとつである 「悲しい色やね」 は外せないところであります。ちなみにこれ、ミュートで吹いてみたらなかなかいい感じの仕上がりになりまして、アドリブがない分、ジャズ系よりも演奏は簡単なので、とりあえず歌謡曲をカラオケ感覚で吹いてみるというのも楽しいかも知れませんね。

 MIDIデータはとりあえずハードディスク上の適当なところにダウンロードしておいて、 “ソングファイラー” を使ってイートラ本体に転送することになります。フリーソフトなので、必要最小限の機能しかないな。…といった感じなんですが、必要最小限の機能はあるので、使用上で特に不便は感じません。ダウンロードしたMIDIデータのファイル名は無味乾燥な英数字の羅列なので、転送する前に分かりやすい名前に変えておいたほうが無難なんですが、イートラで扱えるファイル名は半角英数字8文字のものに限られる。…というのがちょっと面倒なところでありまして。8文字以内ではなくて、8文字きっかりでないと駄目なんですよね。仕方がないので 「中央フリーウェイ」 は “FREEWAY@” と、意味の無いアットマークを入れたりする破目になって、もうちょっとフレキシブルに、ファイル名に全角日本語が使えるようになると使い勝手も向上すると思うんですけどね。内蔵メモリの容量は 992KBとなっていて、これではあまりにも少ないではないか!…という気がするんですが、MIDIファイルなんてのは1曲あたりせいぜい 50〜80KBくらいしかないので、12〜20曲くらいは大丈夫でありましょう。プリセット曲にはいらないものも多いので、これを抹消してユーザー領域を増やせるといいんですが、こちらはしっかりROMに焼き付けられているようで、そういうわけにもいかないようです。ま、実用上は問題ない仕様でありますが、欲を言えばSDカードか何かで直接データをやり取り出来るようになると容量も増やせるし、面倒なケーブル接続も必要がなくなって便利になると思うんですけどね。

 手当たり次第にダウンロードした結果、駄目ぢゃん!…と判断されたものが約半数を占めて、何だか悔しいので、 何とかしてみることにしましょう。MIDIデータを編集出来るソフトがあれば何とかなるかも知れませんね。そこで色々と試してみた結果、 Music Studio Producer というのがいいかも知れないね?…という気がしないでもありませんね。フリーソフトだから駄目モトで試してみたところ、これがなかなかのスグレ物でありまして、特に五線譜がまったく読めない僕にとってはピアノロールで編集出来るというのが大きなポイントでありまして、それは一体どういうものなのかと言うと、こういうものなんですけどね。

ぴあのろーる画面♪

 要はこれ、自動ピアノ演奏用の紙テープのようなものだと思っておけばいいと思うんですが、テープが右から左へと流れていって、穴の開いているところで、穴の位置の音が穴の長さの分だけポーンと鳴ると言う。いや、非常に直感的で分かりやすいですよね。楽曲を編集するには穴の位置を上下に動かして音程を変えたり、穴の大きさを変えて長さを変えたり、穴をふさいで音が出なくすればいいわけでありますな。試しに 「ラウンド・ミッドナイト」 のマイルスのパートをピアノロール化してみたところ、今まで気が付かなかったんですが、ところどころに不用と思われるごく短い音符が入り込んでいたりして、なるほど。コイツのおかげで “歌って演奏” のとき、今ひとつタイミングがズレちゃったわけでありますな。これを抹殺して、あと、あまりにも短い音符が連続していてタンギングが追いつかないところは適当に音を間引いて、これだけでかなり演奏しやすいデータに変貌を遂げたのでありました。ついでに懸案となっていた、ぱっぱっぱー、ぱー、ぱー、ぴゃ〜♪…の部分も付け足すことにしたんですが、これはまだソフトの操作に不慣れであるために、かなりの苦労を伴う作業になってしまいました。挙句、マイルスのパートもコルトレーンのパートも途中からいきなりピアノの音色になってしまって、これは未だに解決出来ないままでいるんですけどね。ま、コルトレーンが途中からピアニストに転職したと考えれば、それほど大きな問題ではないんですけどね。ま、いずれにせよ、このソフトを完璧に使いこなせるようになれば、どんなデータでもイージートランペット用として作り変えることが可能になる筈でありまして、無論、才能のある人ならオリジナル曲を作ることだって可能なわけですよね。

 で、MIDI関連のアプリケーションを色々と当たっているうちに、素晴らしいソフトがあることを発見しました。何と waveファイルを MIDIに変換出来るというではありませんか。これさえあれば手持ちのトランペッターのCDを片っ端から MIDI化して、すべて “歌って演奏” することが可能になるわけでありますな。まさに夢のような話ではありませんかー。 が、いろいろと調べてみると、どうやらピアノやギターの音以外は苦手なようでありまして、例えばドラムスの音などは騒音と化してしまうそうです。駄目ぢゃん!…ということで、結局のところは既存のMIDIデータに頼らなければならないようですが、努力と工夫しだいでは何とでも遊べる “大人のオモチャ” と言えるのではないでしょうか。ということで、イージートランペットのお話はおしまい。

( おしまい♪ )


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