『 JAZZ625 BILL EVANS TRIO 1&2 (その1) 』



 えー、正直なところこの“DVD”にはあまりソソされるものを感じず、リクエストを頂いたのもギャル系でもなんでもない某レーザー技士でありましたので、無視しようか?…と思ったんですけどね。が、ここでもし彼の機嫌を損ねてカキコをして貰えないようになったら、ウチの掲示板は目も当てられないような惨状を呈するであろうことは火を見るよりも明らかでありまして、投稿者が“さば”→“さば”→“さば”→“さば”→“のぼる”→“さば”→“加奈”→“さば”→“さば”→“さば”…みたいな。めずらしく新しい人で、しかもギャル系か?…と思って心をときめかしていたら、“すごく落ち込んでたんだけど今は超happy(≧∀≦)”って、そんなこと知らん!…と、僕としては言いたいたいです。のぼるクンの“僕の話を聞いてもらえますか?”という書き出しからは彼の謙虚な性格を窺いしることが出来ますが、君に彼女が出来た話など、別に聞きたくないちゅうに。…とまあ、ここまで書いた時点で1ヶ月近く経過してしまい、のぼるクンとか加奈ちゃんとか言われてもさっぱりワケがわからなくなっちゃいましたが、とりあえず『JAZZ625』です。僕はこのシリーズに関してひとつの疑問がありました。それは何かというと、何で“625”なんや?…という、誰もが一度は心に抱いたことのある疑問であるわけなんですが、この“DVD”を買ってその謎が判明しました。“DVD”の場合もライナーノートというのかどうか知りませんが、ま、その類の同封されていた解説書にその疑問に対する明快な回答が書かれておりました。この“DVD”の元ネタは1964〜65年にイギリスのBBCで放送されたジャズ番組らしいんですが、そのタイトルが『ジャズ625』。で、どうして“625”なのかと言うと、64年にイギリスで採用された画期的なテレビ放送システムの走査線の数が“625”なんだそうでありまして。うーん、成るほど、気分はすっきり。もう、目からウロコ肛門からウンコって感じぃ?実に明解な回答であると言えましょう。で、“明解”といえば赤瀬川原平『新解さんの謎』という本がありまして、これは三省堂の『新明解国語辞典』は面白い。…ということについて書かれたものなんですが、成るほど、読んでみると確かに面白そうな辞書ではありますな。例えば“快便”という言葉の解説として、「大便を排泄したあと、さっぱりした状態になること。」と書いてあったりするそうです。なんというさっぱりした解説なんでしょう。僕が高校生だった頃、友達の間で『岩波国語辞典』(だっけ?)がおもろい。…ということが話題になったことがあるんですが、何がそんなにおもろいのかというと、“洒落”という言葉の使用例として、「そんな洒落はやめなしゃれ。」…というのがあったという、ただそれだけのことでありました。いや、そんなくだらない洒落なんかより、“新解さん”のほうがよっぽど洒落てますよね。

 で、本題のビル・エヴァンスに入るわけでありますが、最初に僕のエヴァンスに対するスタンスを明らかにしておくと、高く評価しております。もしギャルに、「何か素敵なジャズのあるばむ、貸して欲しいのぉ♪」と頼まれたりしたら、迷わず『ワルツ・フォー・デビー』を渡します。事実、イトコのギャルには3年ほど前に『ワル・デビ』と、コルトレーンの『バラード』と、プレスティッジ盤の『レイ・ブライアント・トリオ』を貸してあげたんですが、未だに返ってきませんなぁ。僕は貸してあげたつもりだったんですが、本人は貰ったつもりなのかも知れませんね。ま、身内のことですんで別にいいんですが、ちなみに僕がいちばん好きなエヴァンスのアルバムは『エクスプロレイションズ』であったりします。そのことからもわかるように、僕は“エヴァンス・ラファロ・モチアンのトリオ至上主義者”でありまして、さすが“保守的ジャズ系サイトWebマスター”の面目躍如としったところでありますが、よって僕は1965年あたりのヴァーヴ盤となると、あまりソソされるものを感じないんですよね。で、問題の“DVD”です。ビル・エヴァンス・トリオ、65年の映像作品です。トリオの構成要因はチャック・イスラエル&ラリー・バンカーって、ま、渋いところをついてはいるんですけどね。大いにソソされるというわけではないんですが、70年代以降の“むさいエヴァンス”よりは遥かにマシぃ?…ということで、ではガッツ一抹の希望と共に見ていくことに致しましょう。


「 JAZZ625 BILL EVANS TRIO 1 」

 おおっ!僕は今、猛烈に浣腸しております。…って、いや、そういうありがちなボケはさておいて、僕は今、猛烈に感動しております。正直、期待度は30%くらいだったんですが、いいですなぁ、この映像は。エヴァンス好きのおじさんならきっと、「この映像はええぞぉ。」とか言いますね。いや、僕は恥ずかしくてとてもじゃないけどそんな低レベルのギャグを口にすることは出来ないんですが、おじさんというのはある意味、恐いもの知らずですからね。そういえばウチの親父も昔、エーザイの株を買って、「エーザイはええざい。…ってか?」と、もの凄くつまらないことを言っておりました。そういう言葉を耳にして育った結果、僕は「男は無口なほうがいい。」というポリシーを持つに至った次第でありますが、しかしこの“DVD”、レビューをするにはちょっと辛いものがありますなぁ。名作『真夏の夜のジャズ』みたいに出演者は入れ替わり立ち替わり、時折、観客の様子やヨットレースの模様まで映してくれるとなれば、変化があって筆も大いに進むというものでありますが、今度ばかりは出てくるのがエヴァンス・トリオだけですからね。観客のノリも今ひとつだし、カメラワークも単純だし、どこから攻めていいのか今ひとつ見当がつかないんですが、ま、とりあえず最初から見てみることに致しましょう。えーと、まずいきなり“”ですね。ピアノの鍵盤と、それを弾くエヴァンスの手がアップで映し出されるわけですが、やがてカメラが引いてエヴァンスの横顔が見えてまいります。おお、これはまさしく本物のエヴァンスでありますな。エヴァンスのそっくりさんの“ビル・エロガッパ”とかでお茶を濁しているということはなさそうです。天下のBBCがそのような姑息な手を使うとは思えないし、それに“エヴァンス”と“エロガッパ”では最初の“”の字が合ってるだけで、もはやそっくりさんとも思えないしぃ。で、演奏している曲はアレです。「テーマ」という曲です。どういうメロディのテーマなのかと言うと、聴いてもらえればわかります。わりとよく耳にするお馴染みのテーマでありまして、演奏の途中から映像が始まる感じだったので、はじまってすぐに終わってしまいます。が、ニコリともせずに、「ケッ!」とでも言いたげな表情でピアノを弾いているエヴァンスが、実に魅力的です。無口で、一見すると無愛想で、何だかとっつきにくそうなんだけど、根は単なる女子高生好き。…というのが僕の理想ですからね。その意味でエヴァンスはかなりイイ線いってるような気がします。

 ぱちぱちぱちぃ。観客の拍手に軽く会釈をして応えるエヴァンス。そこに司会者らしきおっさんが登場して、エヴァンス以下、トリオのメンバーを簡単に紹介します。どうやらこれ、テレビ番組の収録にあたって、観客を入れてスタジオ・ライブを挙行した。…といった感じの設定なんですよね。で、あっ、ここまで書いて思い出しました。先ほどの「テーマ」という曲なんですが、これは『ニュー・ジャズ・コンセプションズ』というアルバムに入っていた「ファイブ」という曲でありますな。そうならそうと最初から言ってくれればよかったのに、BBCってば不親切でありますなぁ。。。で、2曲目以降は実にまあ、ベタなほどにお馴染みのナンバーばかりが揃っているんですが、まずは「エルザ」でありますか。『エクスプロレイションズ』よりちょっと速めのテンポで演奏されておりますが、これがまた実に素晴らしい出来栄えでありまして。エヴァンスが生きてて、動いてて、「エルザ」を弾いてる…って、もうそれだけで何だか嬉しくなっちゃうんですが、カメラ・ワークとしては、まずトリオ全体を横のほうから、そして今度はエヴァンスの正面頭が重なるように見えてまいります。実にまあ、見事なオールバックでありますな。もう、ポマードのネチョネチョ感が画面からも伝わってきそうでありますが、深くうつむいて、鍵盤よりも更に手前のほうに視線を落としながら一心にピアノを弾いているエヴァンスの姿がいとおしいですね。

 やがてカメラはエヴァンスを真横方面から捉えて、演奏のほうもアドリブ・パートへと突入してまいります。で、続いてはチャック・イスラエルのソロでありますな。この人はスコット・ラファロとエディ・ゴメスの間に挟まれて、歴代のエヴァンス・トリオのベーシストの中でも地味な存在であるわけですが、この映像で見る限り、ヤングな白人の兄ちゃんでありまして、テクニック的にもなかなか優れたものを持っているような気がいたします。いいぞぉ、チャックぅ!…ということで、3曲目です。「サマータイム」です。とってもお馴染みですね。あ、その前に観客席の様子が映し出されたりするんですが、ざっと見渡して2人くらいは若いギャルがいるようですね。エヴァンスという人はギャルに人気が高いとばかり思っていたんですが、聴きに来ているのは圧倒的におっさんが多いですね。ハゲてるのも何人か見受けられます。で、『真夏の夜のジャズ』のヒップな観客たちに比べると、お堅いイメージが強いような気がするんですが、ここがアメリカとイギリスのジャズ・ファンの客層の違いなんでしょうか?…といったところが文化人類学的に見て、ちょっぴりおもしろいカナ?…と加奈ちゃんも言っておりましたが、「サマータイム」はチャック君のピチカートで幕を開けます。

 …と、ここまで書いて更に2週間ほど経過しちゃいました。いい加減、勝負を付けないといけませんな。とにかく、映像を見て、一時停止したり巻き戻ししたりしながら原稿を書かなければならんというのがネックになっておりまして、面倒だからそういうことはヤメちゃいましょう。とりあえず見るだけ見て、ところどころメモを取って、後でまとめて書く。…というスタイルをとっていこうと思います。…と思ってDVDを見ようとしたら、ソフトがどこにも見当たりませんで。いや、すけべDVDを見る際にプレイヤーから取り出して、ケースが見当たらなかったのでとりあえずハダカのまま、そこらに放置したところまでは覚えているんですよね。ハダカのままだときっと、どっかにいっちゃうなぁ。…と思いつつ、『裸族Vol.1・小野かすみ』というのを鑑賞していた記憶があるんですが、案の定、どっかにいっちゃいました。しかたがないのでもう1枚買ったんですが、更に2週間ほどロスしてしまいましたなぁ。加奈ちゃんのカキコって、いつの話や?…と思って調べてみたら、8月13日の話ですね。あれから2ヶ月弱。いやあ、世間ではもうすっかり秋になりましたなぁ。ということでDVDの鑑賞に励んだ次第でありますが、舞台はまずホテルの1室のようですね。ベッドの上にはシーツを纏った男が寝転がっていて、かすみちゃんは鏡に向かってブラシで髪を梳かしております。…って、これは『裸族』のほうですね。こんなものを見ている場合ではありません。えーと、どこまで進んでましたっけ?「サマータイム」でしたね。演奏のほうはベースの無伴奏ソロで始まって、カメラはチャック・イスラエルの手の部分をアップで捉えております。僕としてはチャック君のズボンのチャックのあたりが気になるところなんですが、そこの部分は捉えられてはおりません。ちょっぴり残念ではありますが、ま、そんなものを見てみたところで心が癒されるわけでもないしー。で、エヴァンスが入ってテーマになるわけですが、ミディアム・テンポのなかなかスインギーな演奏でありますな。で、テーマが終わると再びベースのクソ長いピチカート・ソロとなりまして、チャック君ってば、もうフィーチャーされまくりぃ。で、その後、エヴァンスのソロとなります。ラリー・バンカー君は終始ブラシを駆使してのサポートでありますな。ま、ブラシも櫛も用途としては似たようなものなので別にいいとは思いますが、バンカー君のブラシ遣いは映像的にかすみちゃんのソレほど、ソソられるものがなかったことを告白しておきます。ま、演奏としては文句のつけようがないんですけどね。

 4曲目、「カム・レイン・オア・カム・シャイン」。解説では市川正二クンが“ピアノに覆いかぶさるような姿勢でプレイする姿”について言及しておりますが、“スローな曲になればなるほど、その傾向が著しくなる”んだそうで。スインギーなこの曲ではさほどでもないということなので、そこに着目して見ていきたいと思いますが、あ、その前に司会のおっさんによるチャック君の紹介がありますな。このあたりはステージの様子をそのまま収録したのか、あるいは後から被せたのかよくワカランのですが、ベースをまるでギターのように扱うチャック君の姿に言及して、その後、「ギターをマシンガン扱いする若者もいますがね(笑)。」と言って、観客の笑いを誘っております。イッツ・ナイス・ジョーク! ということで「降っても晴れても」。出だしはピアノの無伴奏ソロでスローな感じなんですが、テーマに入るとリズムが入ってスインギーな演奏に転じます。で、ソロ1番手はまたしてもチャック・イスラエル。ちょっと前に出過ぎなんぢゃないか?…という気がしないでもないんですが、ま、司会者にも誉められたことだしぃ。ちなみに僕は歯の詰め物がとれたのをそのまま放置しておいたら、何だかひどいことになってきて、もし状態が悪化して歯医者に行くようなことになったら、「どうしてこんなになるまで放っておいたの!?」と歯科医師に叱られることになると思いますが、叱られるのは嫌なので、のっぴきならない状態になるまでしばらく様子を見ようと思っております。で、続いてはエヴァンスのソロでありますが、なるほど、さほどピアノには覆いかぶさっておりませんな。角度にすると70度くらいですかね?が、時折、口を半開きにしたりして、無我の境地に入っていることも伺われます。

 で、皆さま、お待ち兼ね。エヴァンスと言えばこの曲は絶対にハズせないでしょう。「脱臼の歌」…って、んなものはどれだけハズしてもらっても構わんのですが、ハズせない曲と言えばコレです。「マイ・フーリッシュ・ハート」。正二クンも指摘している通り、いきなりエヴァンスの後頭部を後ろから見下ろしているようなカメラワークが斬新でありまして、おー、おー、斬新タイガース、フレーフレーフレーフレー♪…って、このところ4連敗ですけどね。ま、優勝が決まって気が抜けちゃったんでしょうが、日本シリーズでは惨敗しそうな気配もありますね。で、スローバラードだけにピアノに向かう前傾姿勢にもかなりの角度があります。視線はピアノの鍵盤を通り越して、椅子の脚あたりに向かってますもんね。ほとんど、“ちょっぴりアブない心の病”的な気配まで漂わせておりますが、真の部分はまだしっかりしてると思いますだおかだ。で、途中からエヴァンスを捉えるカメラの向きも変わって真正面から見るシーンになったりするんですが、顔の前面がピアノの鍵盤とピタッと平行になったりもしております。こうやって自分だけの世界に没入していたんですね。心底、納得しました。演奏が終わって、観客の拍手に申し訳程度に頭を下げるエヴァンスが最高にクールです。

 で、この後、司会のおっさんによるラリー・バンカーの紹介コーナーになるんですが、椅子に座って脚を組ながらしゃべったりして、態度が悪いですなぁ。ちなみにラリー・バンカーは“ウエスト・コースト・ジャズで有名なドラマー”らしいんですが、ゴルフをやらせるとボールをすぐに砂のところに入れちゃいそうな感じがありますよね。でも、パジェロとかで砂漠を走らせると速そうな感じもあるし、いずれにせよ、何かと“”に縁がありそうなキャラですよね。…って、名前だけで勝手な憶測をすな!…と叱られそうでありますが、ということで、6曲目は「リ・パーソン・アイ・ニュー」です。リバーサイドのプロデューサ、オリン・キープニュースに捧げられた曲で、“RE PERSON I KNEW”というタイトルが“ORRIN KEEPNEWS”のアナグラムになっているということはジャズ・ファンだったら大抵の人は知っているのではないかと。ジャズ・メッセンジャーズの初来日の時、蕎麦屋の出前持ちが口笛で「モーニン」を吹いた。…というのと同じくらいよく知られてますもんね。で、曲自体はいかにもエヴァンスらしい内省的なものでありまして、これぞリリシズムの極み。…といった感じなんですが、前曲に引き続いて“前傾するエヴァンス”の姿を堪能することが出来ます。チャック君もつられて、真下を向きながらベースを弾いたりしておりますな。途中からはテンポも速くなってスインギーな演奏に転じ、が、最後はやっぱりスローなテンポに戻って、“口が半開きなエヴァンス”の姿を見ることも出来ます。ということで、第1集もいよいよ最後の曲ですね。これまたお馴染みの「イスラエル」なんですが、いや、これはいいですな。全体的にバラード風の演奏が目立つ中で、かなりの速いテンポで弾かれる「イスラエル」は、ひときわ異彩を放っております。スインギーな演奏であるにもかかわらずエヴァンスはかなり前傾しておりまして、正二クンの説にも何だか怪しさが生じてまいりましたが、曲が「イスラエル」なだけにチャック・イスラエルも大活躍。が、それよりもここでの注目点はラリー・バンカーのソロでありましょう。ここまでブラッシュ・プレイで裏方に徹していた彼が、ここでは途中からスティックに持ち替えたりして、なかなかシャープなプレイを展開しております。エヴァンス、チャック、バンカーの3者の絡みはとってもインタープレイしておりまして、このDVDでも最大の見せ場であると言えましょう。いずれにせよ、砂を噛むような人生を味わっていたバンカー君にもようやく日の目が当たるようになって、何より。

 で、トリオは最後に再び「テーマ」を演奏して、第1集はおしまい。

( つづく♪ )


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