第12話 「馬鹿にする。」

(2007年08月17日更新)


 日本人というのは何でも4文字に略すのが好きな国民ですよね。古今東西、森羅万象、あらゆる人物の名前や行為、もしくは化学物質などを4文字に略して親愛の念を込めてきたわけですが、例えば人名で言うと遠藤久美子の “エンクミ” なんてのがそうですよね。 行為でいうと、援助交際のことを “援交” と略したりするのがそれです。この場合、親愛の念を込めて…という部分は必ずしも当てはまらないような気もするんですが、そのせいもあってか、この略称は今ひとつ世間一般では認知されていないようで、パソコンで “えんこう” を仮名漢字変換しようとしても “円光” としか出てこなかったりします。埼玉県熊谷市円光という地名や、円光院というお寺があったりするので、この漢字はフォローされているんですかね? ま、エンクミにせよ、援交にせよ、僕にはまったく縁のない話なので別にどうだっていいんですが、これが “塩カル” となってくると話が違ってきます。 塩カルというのは塩カルビの略ではなく、塩化カルシウムという化学物質の四字略語なので、“シオカル” ではなくて “エンカル” と読むのが正解なんですが、これはどういうところに用いられているのかというと、例えば豆腐の凝固剤とか。 もし豆腐が凝固しなかったら、ただの豆乳ということになってしまうので、これは別にいいんですが、問題は道路の融雪剤として使われている塩カルでありまして、雪が溶けて滑らなくて、こりゃ、いいやぁ♪…などと暢気に構えていると、後でクルマの下回りがサビサビになって、えらいことになっちゃいます。 塩カル散布機で直接ブチまけられた日にゃ、ボディにまで被害が及ぶことになるので、雪道を走ったら直ちにカーピカランドで洗車をする必要があるんですが、こうなると塩カルの場合も、決して親愛の念を込めて四字に略されているわけではなく、ただフルネームで呼ぶのが面倒だからというのも日本人の略語好きのひとつの要因なのかも知れません。

 社会人として生活していく上でも四字略語とは決して無縁ではいられなくて、例えば僕が今この文章を書くのに使っている道具は “パソコン” だったりします。 “ワープロ” のソフトではなくて、仕事中に遊んでいるのがバレて “リストラ” されたりすると困るので 「 "こっそり" エディター」 というのでこっそりと書いているんですが、今のところ “セクハラ” とか “パワハラ” とかに悩まされることのない、わりと気楽な職場ですからね。 “ウザナワ” も本社に転勤になっちゃったしー。 あ、“ウザナワ” というのは 「ウザい長縄所長代理」 の略なんですが、ま、近くにいないとなればそれはそれで、ちょっと寂しいような気もするんですけど。…ということもまったくなくて、とっても平和な毎日を送っております。 とまあそれはそうと、この何でも4文字に略す傾向というのはジャズの世界にも見られるんですが、例えば一般人にも分かりやすい例で言うと、渡辺貞夫のことを “ナベサダ” と読んだりするのがそれですよね。 ジャズの世界に限らず、一般的にワタナベくんというのは “ナベ” に略される傾向にあるんですが、といっても、すぐに思いつくのは “ナベツネ” と “ナベキュウ” くらいしか無いんですが、後者のほうは西武ライオンズにいた渡辺久信というピッチャーがこのように呼ばれておりました。あとはまあ、美濃加茂のワタナベくんが “カモナベ” と呼ばれているくらいですか。

 いずれにせよ “ワタナベ” というのはア行の音が3つ続いて最後をエ行で締めるというところが起承転結になっているなのか、いや、別に3番目で “転” にはなっていないんですが、とにかく何となく語呂がいいからなのか、わりと各方面で活躍していますよね。例えば松本ちえこには 「クラスの渡辺くん」 という曲があったりします。 別に 「クラスの苫米地くん」 とかでもいいような気がするんですが、クラスにそんな名前の奴、おらへんやろ!…とツッコミを入れられる恐れがあるので、そこそこ無難にメジャーなワタナベくんに白羽の矢が立ったということなんでしょうか? その他、 “ワタナベ” はキャラクターグッズの世界にも進出しておりまして、先日、蒲郡にある某レジャー施設の土産物屋を覗いてみたところ、たくさんの “わたなべくん” が陳列されておりました。 こんなん です。 「つなげよう、わたなべくんの輪♪」 といったキャッチフレーズが書かれていたような気がするんですが、いまのところまりもっこり ほどには世間に浸透していないような気もするんですけど。いずれにせよ、どうしてこのカエルが “わたなべくん” なのかというと、デザイナーの人が「なんとなく “わたなべくん” という感じなので名付けた。」 ということらしいんですが、ま、そういう奴だったりするんですよね、ワタナベって。

 で、話をジャズの世界に戻しますが、名前を4文字に略して呼ぶというのは外人にだって適用されますよね。 いちばん有名なのはトミー・フラナガンの “トミフラ” あたりではないかと思いますが、その他、ボビー・ハッチャーソンの “ボビハチ” 、オスカー・ピーターソンの “オスピー” 、ジョー・ヘンダーソンの“ジョーヘン” 、ジョン・スコフィールドの “ジョンスコ” あたりがメジャーなところではなかろうかと。 テテ・モントリューの略称 “テテモン” なんてのはちょっぴり “パチモンのポケモン” みたいで、 語呂がよくて個人的には好きなんですが、“モン” つながりということで言うなら、ウエス、バディ、モンクのモンゴメリー・ブラザーズはそれぞれ “ウエモン” “バディモン” “モンモン” ということになりますな。 3兄弟の略称を並べると、当然ながら韻を踏むことになるので個人的には好きなんですが、ジミー、パーシー、アルバートのヒース兄弟は “ジミヒー” “ハシヒー” “アルヒー” となって、どれもこれも今ひとつですな。 “ヒー” や!後半の “ヒー” が悪いんや!…ということで、例えば日本のワタナベのように略称に適した苗字と、そうでない苗字とがあるようなんですが、例えばジョーンズなんてのは結構イケそうな気がします。ジョーンズ3兄弟のうち、末弟のエルビンは “エルジョー” となって、どうもあまりパッとしないんですが、長兄のハンクは “ハンジョー” となって、何だかとっても繁盛しそうですよね。次兄のサドは “サド嬢” となって、何だかとっても虐めてくれそうで、ドキドキ♪

 …と、ここで人名編はネタが尽きたので、続いては曲名編にシフトしようと思うんですが、英語のタイトルがそのまま略称になっているのは 「ラバー・カムバック・トゥ・ミー」 の “ラバカン” くらいしか思い浮かばなくて、邦題のほうを略すというパターンのほうが多いですね。 いちばん有名なのは 「酒のバラの日々」 の “酒バラ” なんですが、その他にも 「夜は千の眼を持つ」 の “ヨルセン” なんてのもあったりします。 あとはえーと…、特に思い付かないので先に進みますが、人名、曲名と来て、ではアルバム名はどうなのかと言うと、これはもう “サキコロ” に尽きると言ってもいいのではないでしょうか。 さほど収録されている語数が多くはない こんなところ にまで登場してますもんね。

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 「サキイカ入りコロッケ」、略して “サキコロ”!…ではなくて、 「サキソフォン・コロッサス」 というのが正式なアルバムの名称なんですが、後半の “コロ” の部分が何となくコロッケみたいで親しみやすいところが、この略称が定着した一因でありましょうか? “コロちゃんのコロッケ” は倒産しちゃいましたけどね。 僕はスキーの帰り道に長野道の 「みどり湖PA」 に寄ってコロちゃんを食べるのが好きだったんですが、コロちゃんのコロッケとコロメンチ、合計100円で充分に腹の足しになりましたからね。 倒産すると分かっていたら、せめてコーンクリームコロッケあたりを買ってあげればよかったと悔やまれるところでありますが、そうですかー。 「サキコロ」 を馬鹿にするヤツがいるんですかー。 ちなみに作者のワカコ先生の話によると、 「サキコロ」 を馬鹿にしたのは先生のお友達で、ビル・エバンス命!…な美人の人妻(39歳)なんだそうですが、何でも、どんつくどんつくした民族音楽系はダサくて嫌なんだそうで。それを聞いて僕は、ハタと膝を打った次第でありますが、そうだよねっ!確かに 「サキコロ」 って、世間で騒がれるほどの名盤ではないよねっ! いや、もしその発言をしたのが59歳の不細工なオッサンだったりしたら、また対応が変わることになるとは思うんですが、実際問題、僕はまだジャズに関してド素人だった頃、「サキコロ」 って何かめっちゃ有名らしいしぃ。…というので買って聴いてみたんですが、今ひとつピンと来るものがありませんでした。 特に冒頭の 「セント・トーマス」 という曲は何だかどんつくした民俗音楽みたいで、オシャレさに乏しいような気がして、JAZZって都会の夜のアンニュイだよね。…と考える僕の趣向からは17センチほど東にズレているように感じられました。いやあ、39歳の美人の人妻とは意見が合いますにゃ〜♪ あ、どうして語尾が 「にゃ〜♪」 になっているのかと言うと、その人妻は恐らく大の猫好きなのではないかという、特に根拠の無い僕の勝手な憶測によるものなんですけど。

 初めて 「サキコロ」 を聴いた日から20年。僕のジャズに対する耳はそれなりによくなって、その代わりに目のほうは悪くなって、後、尿酸値とか血糖値とかも増加傾向にあるんですが、 「サキソフォン・コロッサス」 に対する評価もそれなりに高くなってはいます。 ロリンズのアドリブはやっぱり凄いと思うし、曲単位で言うと 「ストロード・ロード」 というのがカッコよくて、いいですよね。タイトルもちゃんと韻を踏んでいるしー。 ちなみに僕の場合、39歳の美人の人妻とは違って、さほど “どんつく系” に抵抗はなかったりするんですが、特にラテンっぽいのとかボサノバ系のサウンドというのは大好きだったりします。 レッド・ガーランドの 「マンテカ」 なんてアルバムも実にノリがよくて楽しくて、聴いてるだけで体がウキウキとスイングしちゃうんですが、敢えて省略しなくても最初から名前が4文字であるところもポイントが高いと思います。 この時点で僕は39歳の美人の人妻と仲良くなる資格を失ってしまったかも知れませんが、それならそれで、「アタシ、前世がブラジル人なのぉ♪」 といったラテン好きなタイプのギャルと仲良くなるから、別にいいもんっ! そのラテン好きなギャルが大のネコ好きだったりすれば、もう言うことは無いんですが、それはそうと、ここでいきなり “北島三郎” ですかぁ。 “ワタナベ” という名前と違って、3コマ目にきっちり “転” を持ってきたな!…という展開でありますが、僕は子供の頃、ラジオでよく 「クラウンレコード1万円クイズ」 を聴いていたので、北島三郎に対する嫌悪感というのは他のジャズマニアに比べると、さほど強くはなかったりするんですけど。 「風雪流れ旅」 とか、毎日のように聴かされながら眠りについて、うなされていたので、すっかり免疫が付いてしまったというか。 何でもいいけど3人目の猫って、えらく不細工ですよね。 『猫街JAZZ通り』 史上、最もルックスに恵まれないキャラと言ってもよさそうなんですが、ま、いかにも北島三郎とか言い出しそうな雰囲気の感じられるところが絶妙ではあるんですけど。

 いずれにせよ、ジャズマニアと呼ばれる人たちはジャズを愛するがあまり、他のジャンルの音楽を馬鹿にする傾向があることは否定出来ません。 ロックだって、ポップスだって、クラシックだって、演歌だって、軍歌だって、アニソンだって、どれも同じ “音楽” ぢゃん! …というのを、このブサイク猫から改めて教えられた思いであります。 これからは、メインとして聴いていくのはジャズでいいとして、たまにはサブとして、サブちゃんも聴いてみようと心に決めた僕なのでありました。おしまい。


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