『 余呉湖周辺 』


【撮影場所】 滋賀県・伊香郡余呉町

【撮 影 日】 2008年04月05日


 余呉駅は切符の自動販売機さえ無い小さな駅だった。観光案内所のおばさんが窓ガラスを開けて、迎えてくれた。余呉湖は駅のプラットホームからも見えるほどの距離にある。この駅に降り立ったのは僕を含めて3人。いずれも、一目見てそれと分かる写真愛好家の出で立ちである。桜の便りがまだ届かぬこの日、目的は僕と同じ、導水路に咲く菜の花であるものと思われたのだが、僕が駅を出て湖に向かって歩き出した頃には、彼らの姿は見えなくなっていた。


▲導水路に咲く菜の花(その1)


 車窓からも見えていた水路沿いの花は、思っていたほど、たくさんの数というわけではなかった。期待していた桜の木も、まだ蕾が固く閉じたままである。 が、この水辺には間違いなく春の足音が聞こえた。


▲導水路に咲く菜の花(その2)


 余呉湖は長らく閉鎖湖だったが、そんな閉鎖的なことではいかん!…というので、あ、紀行文っぽい文体がここで崩れてしまったので、以後、普通に書くことにしますが、1933年に導水路が作られて、余呉川の水がこの湖に流れ込むようになったんだそうで。 が、流れ込んでくるばかりでは、溢れるやん!…ということに気付いて、湖の水を川に戻す放水路というのも作られて、ついでに琵琶湖の水をポンプで汲み上げるための地下水路まで作っちゃったんだそうで。けっこう無茶なことをしますなぁ。 ま、そんなこんなで、導水路が余呉湖に流れ込む直前のところに調整用のゲートがあったりするんですが、そのすぐ上流には小さなコンクリートの橋もあったりして、その上から写真を撮ってみたり、その橋を写真に撮ってみたりと、そういう用途にはけっこう便利だったりします。人類の営みと自然の営みと夫婦の営みの接点というか、いや、夫婦の営みはあまり関係なかったかも知れませんが、コンクリート橋の薄汚い灰色と、野に咲く花の鮮やかな黄色、直線的な管理橋のラインと、樹木の持つ絶妙なカーブ。そのコントラストが僕はけっこう好きです。


▲導水路に咲く菜の花(その3)


 余呉駅から長浜方面に向かう列車は1時間に1本ないしは2本。そのうち、この駅を毎時10分に出る新快速は姫路行きとなっていて、何もそんな遠くまで行くことはないやろ?…という気がしないでもないんですが、8時40分にこの駅に降り立った僕は、10時10分の新快速で長浜に戻る予定でいました。滞在時間は1時間半。果たして、その間に傑作をモノにすることが出来るだろうか? そんな不安で一杯だったんですが、桜も咲いてないし、菜の花も思ったほど多量に蔓延っているというワケでもなかったり、とてもそんなに間が持たないというのが判明したので、9時34分発の普通列車で帰ることにして。 導水路沿いの道を戻り、県道に出たところで左に曲がると駅に戻ることが出来るんですが、電車の出発まではまだ時間があるので、県道に出たところで左に曲がらずに、まっすぐ水路沿いの畦道のようなところを歩いてみることにしました。 菜の花密度としては、その辺りがいちばん濃くなっていたんですよね。 畦道の突き当りが北陸本線の鉄橋になっていて、鉄っちゃん系のカメラマンが喜びそうなロケーションになっていたんですが、僕はこの鉄橋の上を何時何分、どんな列車がどっち方面から走ってくるものなのか、そういう下調べを一切していないので、いつ来るとも知れぬ列車をボーっと待っているワケにはいきません。とりあえず、その辺に咲いている菜の花やらオオイヌノフグリやらを撮影して、そろそろ時間が迫って来たので県道に向かって歩き始めたんですが、するとその時、踏切から警報機の音が! 慌てて鉄橋のほうに戻ると、右から左に向かって “特急しらさぎ” が走ってくるところだったんですが、不意を突かれた形で構図もピントもかなり適当になってしまって、とても人様にお見せできるような作品とはならなかったので、 “しらさぎ” など最初から走って来なかったことにして、とりあえず菜の花の写真を掲載しておきます。 水路に段差があって、超小規模なナイアガラの滝みたいになってるポイントを狙ってみたんですが、どんなもんでしょうか?

 駅に戻るとちょうど近江塩津行きの新快速が到着したところで、わりと多数のおばちゃん系ハイカーの姿が見られ、小さな湖の近くの小さな駅は、一時の賑わいを見せていたのでありました。


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